給与所得控除とは?計算方法や基礎控除、所得控除との違いなども解説

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給与所得控除とは?計算方法や基礎控除、所得控除との違いなども解説

給与所得控除は、会社員やパートの人が所得税を計算する時に給与収入から一定額を差し引く制度です。2025年からは最低控除額が変更されることもあり、詳細を知らない人も多いでしょう。今回は給与所得控除の基本情報から、他の控除との違い、具体的な計算方法などを解説いたします。会社員やパートなど給与をもらって働いている人は、ぜひ一度ご確認ください。

この記事の目次

    給与所得控除とは

    給与所得控除とは給与収入から一定額を差し引いて、課税対象となる給与所得を算出するのに使用されます。会社員・パート・アルバイトなど給与をもらっている人が対象の制度です。

    個人事業主は事業に必要となった支払いを経費として控除が可能ですが、給与所得者には経費の項目は存在しません。しかし、仕事に必要な出費は存在することから、経費項目の代わりに給与所得控除が適用されています。

    そもそも給与所得とは、従業員に支払われた給与や賞与から給与所得控除を差し引いた金額のことです。また、給与所得と似た言葉に給与収入がありますが、給与収入は残業代や手当などを含んだ給与や賞与のことで、額面部分を差しています。

    副業や脱サラしても受けられる

    副業をしている人でも、給与収入がある人は給与所得控除の対象です。本業で会社員、副業で個人事業主の場合は、会社から支給される給与に対して給与所得控除が発生します。副業については個人事業主として経費計上ができるため、そちらで控除をします。

    本業は会社員、副業でアルバイトをしているなど、2箇所以上から給与を受け取っている際は、控除の適用範囲に注意が必要です。給与所得控除はそれぞれの給与に発生するわけではなく、本業と副業の収入の合計金額から金額に応じた給与所得控除を差し引いて計算します。

    年末調整では対応しきれないため、本業の会社で年末調整をしてもらい、その後本業と副業の源泉徴収票の収入額を使って計算した給与所得控除額を、確定申告で申告して控除を受ける必要があります。

    年の途中で会社を退職して開業した場合は、退職した年の給与収入にのみ給与所得控除の適用が可能です。もし2025年1月〜6月まで給与を受け取っていた場合は、半年分の給与に対して控除を適用できます。しかし、2026年以降は給与収入がなくなるので、給与所得控除は受けられません。

    給与所得控除と他の所得控除との違い

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    給与所得控除は、給与収入を受け取っている人に適用される控除の1つです。しかし、所得に関する控除は種類が多く、他の控除との違いがわからない人も多いでしょう。以下では、間違いやすい基礎控除や所得控除との違いを解説いたします。

    基礎控除との違い

    基礎控除とは給与所得者・個人事業主を問わず、年間の合計収入金額が2,500万円以下の人に適用される控除です。控除額は収入額に応じて、以下のように段階的に設定されています。

    • 合計収入2,350万円以下:58万円
    • 合計収入2,350万円以上〜2,400万円以下:48万円
    • 合計収入2,400万円以上〜2,450万円以下:32万円
    • 合計収入2,450万円以上〜2,500万円以下:16万円

    上記の金額は2025年に改正された金額になるため、2025年の所得税及び2026年以降の給与の源泉徴収に適用されます。改正前の控除額は以下の通りです。

    • 合計収入2,400万円以下:48万円
    • 合計収入2,400万円以上〜2,450万円以下:32万円
    • 合計収入2,450万円以上〜2,500万円以下:16万円
    • 合計収入2,500万円超:0円

    差し引かれる金額が異なるため、事前に確認しておきましょう。

    所得控除との違い

    所得控除とは個人や家庭の事情を考慮して、所得税額を計算する際に使用できる制度です。利用できる控除は複数あり、医療費に関する控除や生命保険に加入していることで利用できる控除などがあります。対象となるのは所得を得ている人すべてで、会社員はもちろん自営業者でも利用可能です。

    給与所得控除以外の所得控除について

    給与所得控除以外の所得控除についてご紹介いたします。所得控除には全部で15種類の控除が用意されています。

    控除名 内容
    雑損控除 災害・盗難・横領などの被害に遭った際に、所得控除が受けられる
    保険金から補填される金額を差し引いた金額が控除対象
    医療費控除 納税者とその家族が支払った1年の医療費が、一定額を超えた場合に適用される
    医療費の合計が10万円以上かつ、所得金額の5%を差し引いた額が控除対象
    社会保険料控除 健康保険・厚生年金保険・国民年金保険など、納税者本人が支払った社会保険料の全額が控除される
    小規模企業共済等掛金控除 小規模企業共済や確定拠出年金などの掛け金として支払った金額の全額が控除対応となる
    生命保険料控除 生命保険・介護医療保険・個人年金保険を支払っている場合、一定額の所得控除が受けられる制度
    地震保険料控除 特定の損害保険契約等に係る地震等損害部分の保険料または掛金を支払った場合に受けられる控除
    寄附金控除 国や地方自治体などに対して「特定寄付金」を行った際、寄付金の一部が控除対象となる制度
    障害者控除 納税者本人や扶養親族が障害者の場合に適用される控除
    寡婦控除 配偶者と死別や離婚し、再婚していない寡婦・寡夫の人が利用できる所得控除
    ひとり親控除 納税者がひとり親の場合に適用される制度
    勤労学生控除 学生ながら一定の所得を得ている人に適用される
    配偶者控除 配偶者がいる場合に利用できる控除
    配偶者特別控除 配偶者以外の扶養親族がいる場合は扶養控除の対象になる
    扶養控除 納税者とその家族が支払った1年の医療費が、一定額を超えた場合に適用される
    医療費の合計が10万円以上かつ、所得金額の5%を差し引いた額が控除対象
    基礎控除

    すべての納税者に適用される

    合計所得に応じて段階的に控除される

    参照元:国税庁 所得控除のあらまし

    人によってもその年によっても適用される控除は異なるため、毎年自身が利用できる控除はないか確認しておきましょう。

    給与所得者に関係する特定支出控除とは

    給与所得者が業務に関連した内容に対して自己負担をした場合、所得税や住民税から控除できるのが特定支出控除です。控除できるのは自己負担した金額の合計が、「特定支出控除額の適用判定の基準となる金額」を超えた場合になります。

    その年の給与所得控除の2分の1を超えた金額が、適用判定の基準となる金額です。対象となるのは以下の支出をした場合です。

    • 通勤費
    • 職務上の旅費
    • 転居費
    • 研修費
    • 資格取得費
    • 帰宅旅費
    • 勤務必要経費

    職務上の旅費は、職場を離れて職務を遂行するために直接必要な旅費を指しており、別の営業所へ移動して仕事をするケースなどが該当します。帰宅旅費は、単身赴任などで勤務地と自宅の間の旅行のために必要な費用を指しています。

    勤務必要経費には、図書費・衣服費・交際費等の3つが含まれています。図書費は職務に関連する書籍などの購入費、衣服費は制服や作業服など職務に使用する衣服の購入費、交際費等は得意先や仕入れ先への接待などが対象です。特定支出控除は年末調整では適用できないため、利用する際は確定申告が必要です。

    例えば、年収が500万円・特定支出額が50万円の給与取得者の場合を見てみましょう。

    • 給与所得控除=500万円×20%+44万円=154万円
    • 特定支出額控除=50万円(特定支出額)-(154万円×2分の1)=27万円

    給与所得控除の半分である77万円を超えないため、特定支出控除は適用されません。
    一方、年収1,000万円で特定支出が250万円だった場合は、以下のようになります。

    • 給与所得控除=195万円(上限額)
    • 特定支出額控除=250万円(特定支出額)-(195万円×2分の1)=152万5,000円

    この場合は195万円の2分の1である、97万5,000円よりも多くなるため、特定支出控除が適用されます。

    給与所得控除を使った給与所得の計算方法

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    給与所得を求めるには、給与収入から給与所得控除を差し引いて計算をします。2025年以降改正されていきますが、2025年11月までは従来通り以下の早見表を使って計算します。

    給与の収入額 給与所得控除額
    162万5,000円まで 55万円
    162万5,000円〜180万円まで 収入金額×40%-10万円
    180万円〜360万円まで 収入金額×30%+8万円
    360万円〜660万円まで 収入金額×20%+44万円
    660万円〜850万円まで 収入金額×10%+110万円
    850万円以上 195万円(上限)

    2025年11月以降の内容については、以下でご紹介いたします。

    2025年改正後の計算方法

    2025年に改正された後の計算方法については、以下の早見表をご覧ください。

    給与の収入額 給与所得控除額
    162万5,000円まで 65万円
    162万5,000円〜180万円まで 65万円
    180万円〜360万円まで 収入金額×30%+8万円
    360万円〜660万円まで 収入金額×20%+44万円
    660万円〜850万円まで 収入金額×10%+110万円
    850万円以上 195万円(上限)

    基本的な計算式に変更はありませんが、控除額の55万円が65万円に引き上げられたこと、65万円の対象額が180万円までに拡大されています。

    年収660万円未満の計算方法

    年収が660万円未満の場合は、上記の早見表を活用して計算します。
    例えば、年収180万円の人の場合を、従来の計算方法と改正後の計算方法の2つで見てみましょう。

    ・従来の場合は180万円×40%-10万円のため、控除額は62万円
    ・改正後の場合は180万円-65万円のため、115万円

    改正によって控除額は大幅に上昇します。一方年収が500万円の場合の控除額は、改正前も後も500万円×20%+ 44万円で、144万円です。

    年収660万円以上の計算方法

    年収660万円以上の場合は、上記の早見表とは別に、下記の早見表を活用すると簡単に計算ができます。

    給与の収入額 給与所得控除額
    660万円〜850万円まで 収入金額×90%-110万円
    850万円以上 収入金額-195万円

    例えば、年収が700万円の場合は700万円×90%-110万円で、控除額は520万円です。年収が850万円なら800万円-195万円で、605万円が控除されます。

    給与所得控除の申請方法

    給与所得控除を利用するには、年末調整か確定申告を行う必要があります。両方の申請方法をご紹介しますので、ぜひご確認ください。

    年末調整

    年末調整で給与所得控除を受ける場合は、「給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」に必要事項を記入して会社へ提出します。年末調整を受けるには必ず提出が必要となる紙ですので、配布されたら忘れずに記入し、提出しましょう。

    確定申告

    年末調整の期限に間に合わなかったり、2箇所以上で給与を受け取っていたりする場合は、確定申告を行う必要があります。また、医療費控除や寄附金控除などの一部所得控除を受ける際も、確定申告が必須です。

    確定申告で給与所得控除を受ける時は、確定申告書第一表の「収入金額等の給与」欄へ支払金額欄の金額を、給与所得控除後の金額は「所得金額の給与」欄に記入します。

    まとめ

    給与所得控除についてご紹介いたしました。給与所得控除とは正社員・アルバイト・パートなど、給与を受け取っている人全員が受けられる控除です。通常、自営業者が事業での支出を経費として計上し、課税対象額を調整できるのに対して、会社員は経費の計上ができません。

    しかし、職務に必要な出費は会社員も発生することから、一定割合を収入から引いて控除するために設けられているのが給与所得控除です。2025年からは給与所得控除の控除額が一部改正されるため、来年以降の年末調整額が変更される人もいます。ぜひ年末調整の際は、控除額が間違っていないかを確認し、正しい納税がされるように協力しましょう。

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