2025年、親と子の働き方はどう変わる?特定扶養控除と特定親族特別控除について解説
- ちょっと得する知識
- 公開日:2025年8月 5日
2025年、学生アルバイト(19歳~22歳)の扶養控除における「103万円の壁」が「150万円の壁」へと大幅に引き上げられます。本日は、「特定扶養控除」と「特定親族特別控除」に注目し、解説をします。
この記事の目次
子どもの年収上限が103万円から150万円に!
皆さんは、特定扶養控除についてご存じですか?
学生時代、ご自身がアルバイトをしたことがあったり、対象になるお子さんがいたりする世帯にとっては身近かもしれません。しかし、「子どもの年収が増えると、親の扶養から外れてしまうもの...?」という大枠だけを知っている方がほとんどかもしれません。
特定扶養控除と特定親族特別控除
特定扶養控除とは、大学生などの特定の子供を扶養する世帯が受けられる所得控除のことです。子どもがいる世帯では、子育て関して多くの費用がかかってしまうもの。そこで、学生がアルバイトをしても、ある程度の年収までは親の控除内で働けるようにしましょう、と考えられたものです。
従来では子供の年収が103万円を超えると、親は63万円の控除を受けられなくなっていました。そのため、学生バイトにとって「103万円の壁」と言われてきたのです。しかし、今後は「特定親族特別控除」として子供の年収上限が150万円に引き上げられることが正式に決定しました。
これにより、大学生などの子どもは親の税負担が増えることを気にせずにより多くの時間働くことができるようになるのです。具体的には、19~22歳の子を扶養する親の場合、子の年収が150万円までなら税金を計算する収入から一定額(所得税は63万円、住民税は45万円)を差し引ける税優遇を受けられることとなります。
これにより、子どもの働き控えが減るだけではなく、親も節税が行えるので子どもと生計を一にする家庭にとっては世帯収入が上がることに。なお、所得税は2025年から適用され、住民税に関しては2026年度からの適用開始となるといいます。
また、これまでは「103万円の壁」があったために学生アルバイトが就労調整をせざるを得ず、学生アルバイトを必要としていたサービス業などで人手不足が起きていました。今後、150万円に壁が引き上げられたことで、人手不足の解消にも繋がるだろうと期待されています。
就業調整をしている学生が多数!
マイナビが実施した「アルバイト就業者調査(2024年)」によると、アルバイト就業者全体のうち31.5%が「就業調整をしている」と回答しました。また、そのうち大学生の4割以上が就業調整をしているといいます。
さらに、そのような就業調整をしているアルバイト就業者は「年収の壁」がなくなった場合にどうしたいかとの質問に「もっと働きたい」と回答した人が54.6%で、大学生に限れば72.1%と、過半数以上がもっと働きたいと答えたといいます。
つまり、今回の特定扶養控除の決定は学生たちの「もっと働きたい」、「働き控えをなんとかしたい」という想いに応えた形でしょう。
データ元:マイナビ「大学生アルバイト就業者の「年収の壁」に関するレポート(2024年)」
年収上限の引き上げでどのような変化が起きる?

これまでは親が特定扶養控除を受けるためには、子の年収が103万円以下と定められていました。しかし、最近では最低賃金が上がったため、特定扶養控除の枠に収まるためにはどうしても働く時間を削らなくてはいけない学生たちがいます。
さらに、近年では物価高の影響で金銭的に余裕がないのにも関わらず、働きたいのに働けないというジレンマを抱えた学生たちも少なくありません。社会全体でみても、若い世代が働きたいと思っているのに働けない現状は、日本経済には非常にマイナスです。
そこで、そうした世相や各家庭の状況を鑑みた結果、特定扶養控除の枠が広げられることに。壁の枠が増えたことで、学生たちも多くの時間をアルバイトに費やすことができるようになるのです。親にとっても子の年収が150万円までであれば、最大63万円の控除を受けられることになります。
社会保険
また一方で、これまでの制度では、学生の年収が130万円までであれば、親などの扶養者の社会保険に加入できました。今後は130万円を超えるとアルバイト先の健康保険に加入するか、自身で国民健康保険に加入するか選択することになります。
社会保険に加入できるとなれば、傷病手当金や出産手当金を受けられるようにもなる一方で、社会保険の支払いは学生である子どもたちに課されるため、稼げるようになるだけではなく、支払うものが増えることも覚えておかなくてはならないでしょう。
親の節税効果
親が63万円の控除を受けることで、どの程度の節税効果があるのでしょうか。所得税は高所得者ほど所得税率が高くなるように設定されており、所得に対して5%~45%課されます。そのため、節税できる金額は親の年収によって異なります。
なお、子がアルバイトで188万円以上の年収を得た場合には、親は特定親族特別控除を使えなくなることもしっかり頭に入れておかなくてはなりません。
子どもの年収が
■130万円を超えると・・・親の健康保険の扶養から外れる
■150万円を超えると・・・親の所得税負担が増える
■160万円超えてしまうと・・・子ども本人に所得税がかかる
このように、特定扶養控除は詳細まで理解しつつ、学生のいる親御さんや学生本人がメリットやデメリットについて考えてみる必要がありそうです。
なぜ、このタイミングで年収上限が引き上げられたのか
今回、特定扶養控除の枠が上げられた背景には、いくつかの要因が考えられます。
人手不足の深刻化
少子高齢化が進んだ結果、現在の日本では深刻な労働力不足の問題が浮き彫りとなっています。そんな中、学生アルバイトはサービス業や小売業といった業界では必要とされている労働力です。企業によっては、人手不足により従業員一人当たりの業務負担や残業時間が増えてしまったり、有給休暇の取得率が低下したりするなど、労働環境が悪化しているところも。
学生のアンケートなどでは実際に働いた時間よりも倍ほどの時間をさらに働けると回答しているものもあり、学生アルバイトを労働力として活用しないことは社会全体のデメリットになりかねないのです。
働き控えが起きている
従来では学生の年収が103万円を超えると、親の扶養から外れ、親の所得税や住民税が増加していました。そのため、「103万円の壁」があるために本当は働きたいのに働かないようにとシフト調整してしまっている学生が多いのが実情でした。
また、奨学金を受給している学生の割合は、大学で55.0%、短期大学で61.5%、大学院修士課程で51.0%です。このように、多くの学生が奨学金を活用していることもあり、働き控えのために金銭面から学生生活を有意義なものにできないといった悩みを抱えている学生も、現状では少なくないのです。
節税効果
今回、年収の壁が上方修正されることで、大学生年代の子どもをもつ世帯の税負担を軽減しようという狙いがあります。親は所得税と住民税の節税効果を得られます。子の収入が150万円以下の場合、63万円に所得税の税率をかけた分について、節税となります。
たとえば、課税される所得金額が400万円の場合、税率は20%なので63万円×20%=12万6,000円となり、この分が手元に残る計算になります。物価高の現在、少しでも家計には嬉しい節税となりそうです。
このように、特定扶養控除の枠を増やすことで人手不足の解消だけではなく、学生の経済的自立を促し、世帯の手取りを増やして経済的な安定をサポートすることも目的としているのです。
データ元:公益財団法人 生命保険文化センター「奨学金を受けている学生の割合はどれくらい?」
年収上限の引き上げで得られるメリットとは?

今回の特定扶養控除の枠が上げられたことで、どのようなメリットがあるのでしょうか。
学生の働き方が自由になる
特定扶養控除の引き上げにより、学生たちはより多くの時間をアルバイトに充て、学費や生活費を稼ぐことが可能になります。例えば、大学生がアルバイトで月に12万円を得ると、年収は144万円になりますが特定扶養控除内の収入なので、家庭の扶養に影響を及ぼしません。
これまでは親の扶養の範囲内で働かなくては親にも迷惑が掛かる可能性もありましたが、年収の壁が上がることで学業とアルバイトを両立できる環境が整いやすくなるでしょう。
労働人口が確保に繋がる
特定扶養控除の引き上げにより、学生がアルバイトに積極的になることで企業側にも人手不足の解消のメリットが生まれるでしょう。特にサービス業や飲食業では慢性的な人手不足が問題となっています。しかし、学生がアルバイトを増やせるようになれば人手不足の業界でも人材を確保しやすくなるという訳なのです。
デメリットは?
ただ一方で、収入制限が150万円に引き上げられることで考えなくてはならない問題もありそうです。それは社会保険の壁です。せっかく収入制限が150万円まで緩和されても、年収が130万円を超えると社会保険料を負担しなくてはなりません。
せっかく150万円の壁を設定しても、社会保険の壁である「130万円の壁」があるために、学生たちは手取りを減らさないようにと収入を130万円以下に抑える働き方に落ち着くことが予想されているのです。
現在の社会保険制度のままでは、130万円で新たな壁が生まれてしまうため、その年収の壁が新たな矛盾になると言われています。
年収上限まで働く際の注意点とは?
年収の壁を考える際に、注意しておかなくてはいけない点があります。それは総収入に含まれるものと含まれないものをしっかりと判別することです。
まず、総収入に賞与や残業代は含まれることを覚えておきましょう。アルバイトは時給で働くのが一般的ですが、企業によっては賞与や残業代が出ることがあります。賞与や残業代などの手当は、年収を計算する際に総収入に含めます。
また、通勤手当(交通費)は含ません。交通費や通勤手当は総収入に含めないことを頭にいれておきましょう。例えば、給与と同時に交通費が支給されている場合、交通費を差し引いて総収入を計算する必要があります。
主なアルバイト先の他に別のアルバイト先がある場合、双方の収入を合算します。フリーランスなどで成果報酬型の収入の場合は注意が必要です。事業所得は経費の計算が必要なので、該当する年の報酬額を合算した上で、経費を差し引いた金額を総収入に含めるようにします。
学生によってはインターンなど、お金を稼ぐ目的よりも就労を目指すための取り組みをする場合もあるかもしれません。しかし、インターンで得た報酬も合算対象となります。「アルバイトじゃないから大丈夫!」と思っていても年収に含まれてしまうため、注意が必要です。
なお、年収とは該当する年の1月1日から12月31日までの期間を合算します。そのため、12月給与の支給が翌年1月であれば翌年の収入となり、該当年の総収入には含めません。
まとめ
学生の働き方を左右することになる、今回の特定扶養控除の決定。今後、学生や学生を持つ親の働き方は変わっていくことを認識しておきましょう。








