2027年の社会保険適用拡大とは?年収106万円の壁撤廃で働き方が変わる
- ちょっと得する知識
- 公開日:2025年11月28日
2027年10月から社会保険の適用範囲が大きく変わります。年収106万円の壁が撤廃され、パートや短時間労働者も厚生年金に加入する時代へ。企業規模要件の引き下げや業種制限の廃止など、改正の背景には少子高齢化や働き方改革があります。本記事では、改正のポイント、メリット・デメリット、そして私たちの働き方への影響をわかりやすく解説します。
この記事の目次
社会保険適用拡大で、加入者は約200万人増える見込み
社会保険は、企業と従業員の条件によって加入が義務づけられる制度です。年金制度改正法で、2027年10月から社会保険の適用拡大が決まりました。
具体的には、従業員規模36人以上の企業は新たに適用対象となります。これまで社会保険の対象外とされていた短時間労働者も、2027年以降は段階的に社会保険の適用対象に含まれるようになっていくでしょう。
現行では以下の条件すべてを満たす短時間労働者のみが、社会保険の加入対象となっています。
・賃金が月額8.8万円(年収106万円相当)以上
・週の所定労働時間が20時間以上
・学生でない
・従業員数51人以上の企業に勤務している
今回の法改正で、賃金要件と企業規模要件(51人以上)が廃止される方向で進められており、2027年10月以降は従業員数36人以上の企業でも短時間労働者に対し、社会保険の加入義務が生じるようになります。
また、この企業規模要件(人数)は段階的に引き下げられていく予定で、将来的にはほぼ全ての企業に対して、短時間労働者の社会保険適用が義務付けられることに。さらに、2027年には賃金要件も廃止される予定です。週20時間以上働く短時間労働者は、企業規模と年収に関係なく厚生年金に加入することになるでしょう。
加えて、法定17業種に限らず常時5人以上の者を使用する事業所も社会保険加入対象となります。従来は適用外だった飲食業やサービス業、第一次産業といった幅広い業種で社会保険加入が必要となるため、業種に関係なく社会保険加入が義務付けられます。
この改正により、新たにパートタイム労働者約200万人が厚生年金の加入対象となることが見込まれているのです。
社会保険適用拡大に至った背景とは?

厚生労働省は、今回の社会保険適用拡大で働く私たちがよりライフスタイルに合った働き方を選びやすくなるなどと言及していますが、改正に至った背景にはどのようなものがあるのでしょうか。
少子高齢化への影響
現在、65歳以上の高齢者人口は総人口の3割にも上る一方で、15歳未満の年少人口はおよそ1,400万人となり、これは総人口に占める割合の約1割です。
このような深刻な少子高齢化により、年金制度の持続可能性が危ぶまれています。今回の社会保険適用拡大により、保険料収入の財源確保の目的もあると言わざるを得ないでしょう。
短時間労働者の保障不足
働き方改革が進む一方で、非正規雇用者が増加した背景があります。そのため、将来的に年金保障を十分に受けられない労働者が増加したことも、今回の改正の大きなポイントとなっています。
厚生年金保険に加入すれば、基礎年金に加えて在職中の給料の額に基づいた厚生年金を受け取ることができますし、病気やけがをした場合や出産などで仕事を休まなければならない際にも、傷病手当金や出産手当金を受け取ることができるからです。
最低賃金の上昇
近年、最低賃金の上昇で多くの地域などで、週20時間以上働くと年収106万円を超えるケースが増えました。そのため、短時間労働者の社会保険の加入条件における、賃金要件(月額賃金8万8,000円)のボーダーラインを簡単に越してしまうことも改正の要因の一つでしょう。
最低賃金の引き上げは毎年行われており、今後も引上げが進めば、週20時間働けば容易に適用要件の「8万8,000円」を超えるという状況が見込まれます。そのため、最低賃金に合わせた制度改革の必要性があったのです。
データ元:内閣府大臣官房政府広報室「パート・アルバイトの皆さんへ 社会保険の加入対象により手厚い保障が受けられます。」、総務省「統計からみた我が国の高齢者」
社会保険適用拡大による働く私たちへの影響とは?
今回の改正で、会社員に扶養されている配偶者や企業に雇われて働いている方で厚生年金の対象になっていなかった労働者を含め、新たにおよそ200万人が厚生年金の加入対象になると見込まれています。社会保険適用拡大によって社会保険への加入により、私たちの暮らしにはどのような影響があるのでしょうか。
保険料を会社と折半できる
厚生年金保険料と健康保険の健康保険料は、労働者側と雇用者側が原則として折半して支払うことになっています。そのため、社会保険に加入すれば、保険料の半分を企業が負担してくれることになります。
保障の充実
社会保険に加入することで、ケガや病気になった際に傷病手当金や出産手当金がもらえるようになります。傷病手当金は、業務外の病気やケガで会社を休んだ場合に、通算1年6か月にわたって給料のおよそ3分の2にあたる金額がもらえます。
出産手当金は、出産のために会社を休んだ場合、出産日前42日から出産日後56日までにわたって給料のおよそ3分の2がもらえます。このように社会保険に加入することでより手厚い医療保障を受けられるようになるのです。
将来に備えた年金の拡充
厚生年金に加入することで、老後の年金を増やすことができます。例えば、年収150万円で20年間働いた場合、増える厚生年金は月に約13,000円となり、年で換算すると約15万に。老後生活の質を高める上でも、非常に重要でしょう。
年収の上限を気にせずに働ける
扶養に入っている場合は、年収の壁を意識して働かなくてはなりませんでした。しかし、自身で社会保険に加入した場合は、年収の上限を気にすることなく働くことができるようになります。そのため、仕事に集中できるだけではなく、その結果として年収を上げることができるのです。
任意継続制度がある
健康保険の任意継続制度とは、退職によって被保険者の資格を喪失したあとも、最長で2年間引き続き同じ健康保険に加入できる制度のことです。国民健康保険の保険料よりも安く抑えられるケースもあるため、退職後に任意継続制度を選べるのはメリットと言えるでしょう。
社会保険適用拡大によるデメリットとは?
では、反対にデメリットになることはあるのでしょうか。
手取りが減る場合がある
これまで健康保険の被扶養者だった場合には、社会保険料は毎月の給料から天引きとなるため、手取りが減ってしまうでしょう。例えば、月額賃金が10万円の場合、約15%程度が保険料として控除されることがあることを覚えておいてください。
また、健康保険を含む社会保険料は、毎月の給与だけでなく賞与も対象となります。そのため、社会保険に加入すると、普段より長く働いたのに手取りが少ないなんてこともあり得るのです。
手続きをする必要がある
家族の健康保険の被扶養者となっていた場合、家族の勤務先で扶養から外れる手続きが必要になります。国民健康保険の加入者であれば、市区町村役場で脱退手続きが必要となりますので、忘れないように手続きを進めましょう。
社会保険適用拡大のポイントをチェック!

2027年度からの社会保険適用拡大において、ポイントとなる点をもう一度抑えておきましょう。
➀企業規模要件の変更
現在、社会保険の加入対象となる短時間労働者は、従業員数51人以上の企業に勤務し、週の所定労働時間が20時間以上であることが条件となっています。しかし、2027年10月以降は36人以上の企業に対する規模要件となる見込みです。
要件は段階的に縮小され、2035年10月には完全に撤廃されることになります。これにより、将来的には企業の規模に関係なく、週20時間以上働くすべての短時間労働者は社会保険加入となるのです。
➁「年収106万円の壁」の撤廃
いわゆる「年収106万円の壁」である、月額8.8万円以上の賃金要件も撤廃されます。撤廃の時期は、改正法の公布から3年以内に政令で定められる予定です。
➂個人事業所への適用対象拡大
現在は、常時5人以上の従業員を雇用している法定17業種の個人事業所が社会保険の適用対象となっていますが、2027年10月以降は業種の制限が撤廃されます。つまり、業種に関係なく、常時5人以上の従業員を雇用するすべての個人事業所が適用対象となるのです。
将来的に、働く人全員が社会保険加入の対象に
現在、全国加重平均の最低賃金を1,500円に引き上げるという動きがあることは皆さんも日々のニュースなどでご存じかもしれません。
今後、最低賃金が1,500円となった場合、パートタイマーとして週20時間働くと年収は約156万円となります。そうすると、社会保険の現在の扶養の範囲である年収130万円を超えることになるでしょう。つまり、週20時間以上働くパートタイマーの多くが、社会保険の扶養から外れることになるのです。
こうしてみると、将来的に全てのパートタイマーが社会保険対象となる日もそう遠くないと言えるでしょう。働き方改革により、正社員として働くだけが働き方ではなくなった今、将来的に生活基盤が整っていない方も現実的に増えてきています。
そうした状況も踏まえれば、社会保険適用拡大で保障を手厚くしようという政府の意図が読み取れるかもしれません。働く私たちは制度変化に合わせ、働き方も踏まえて今後の生き方を改めて見つめなければいけません。
まとめ
2027年から、新たに社会保険適用の拡大が行われます。人によっては手取りが減る一方で、出産やケガなどをした場合には手厚い保障が受けられるようになります。これを機に、一度働き方を見つめ直してみるのも良いかもしれません。








