企業型確定拠出年金(企業型DC)とは?iDeCoと併用するメリット・デメリット
- ちょっと得する知識
- 公開日:2025年6月 2日

企業型確定拠出年金とは、企業が拠出してくれた掛金を従業員が運用し、原則60歳以降に受け取れる年金制度です。今回は企業型確定拠出年金の基本情報から、メリット・デメリット、iDeCoと併用するメリット・デメリットもご紹介します。税制優遇を活かして老後の生活資金を作りたい人はぜひご一読ください。
この記事の目次
企業型確定拠出年金とは
企業型確定拠出年金(企業型DC)とは、企業が拠出してくれた掛金を従業員が運用していき、原則60歳以降に受け取れる年金制度です。企業型確定拠出年金は、加入時手数料や事務手数料などの諸費用も企業負担となります。運用できるのは、運営管理機関が選定・提示した運用商品のみです。
掛金額の上限は、厚生年金基金や確定給付企業年金などの他の企業年金が用意されているかどうかによって異なります。
他の企業年金がある場合 | 月額2万7,500円 |
---|---|
他の企業年金がない場合 | 月額5万5,000円 |
マッチング拠出制度とは
企業型確定拠出年金を利用できる企業の中には、マッチング拠出制度を用意している場合があります。マッチング拠出制度とは、企業が拠出する掛金に従業員が掛金を上乗せするものです。マッチング拠出の掛金は、以下の2点を満たす金額が上限額となります。
• 従業員が拠出する掛金の金額が、企業が拠出する掛金の金額を超えないこと
• 企業が拠出する掛金と、従業員が拠出する掛金の合計額が、掛金の拠出限度額を超えないこと
マッチング拠出制度を利用できるかどうかは、自身の勤めている企業に一度ご確認ください。
企業型確定拠出年金と確定給付企業年金の違い
企業年金制度の中には、企業型確定拠出年金のほかに確定給付企業年金(DB)もあります。企業型確定拠出年金と確定給付企業年金との違いは、以下の通りです。
企業型確定拠出年金 | 確定給付企業年金 | |
将来受け取れる給付金 | 運用結果によって変わる | あらかじめ決まっている |
運用を行う人 | 従業員 | 年金運用機関 |
運用商品の変更・入れ替え | 可 | 不可 |
受け取れる時期 | 原則60歳以降に一時金か年金形式を選べる | 退職時に一時金で受け取る |
確定給付企業年金はあらかじめ将来受け取る金額が決まっているため、もし運用がうまくいかなかった場合は、不足分を企業側が負担します。反対に、企業型確定拠出年金は従業員が運用を行うため、運用がうまくいかなくても企業は負担してくれません。
企業型確定拠出年金のメリット
企業型確定拠出年金に加入すると、3つのメリットを受けられます。
掛金や運用益が非課税になる
企業型確定拠出年金の掛金は、給与のように税金や社会保険料はかかりません。また、運用して得た利益についても非課税です。通常、投資などで得た利益には20.315%の税金が発生します。例えば、100万円の運用益が出た場合は、20万円の税金が発生します。しかし、企業型確定拠出年金の場合は全額非課税となるため、100万円をそのまま受け取ることができます。
受け取り時は退職所得控除や公的年金等控除の対象
企業型確定拠出年金は、受け取る際に一時金形式か年金形式のどちらかを選択して受け取ります。一時金形式の場合は退職所得控除、年金形式の場合は公的年金等控除が適用され、税制優遇を受けられます。
マッチング拠出による掛金は全額所得控除
マッチング拠出を選択した場合、その掛金は全額所得控除の対象です。所得控除として申告すると所得税や住民税が軽減されるため、負担している税額の減額や還付金として返ってくる場合もあります。
企業型確定拠出年金のデメリット
企業型確定拠出年金には、いくつかのデメリットがあります。今回はデメリットとなるポイントを5つご紹介します。
引き出せる年齢が決まっている
企業型確定拠出年金は、原則60歳にならないと引き出しができません。年金と付いているように、老後の生活資金の形成を目的としているためです。そのため、60歳になるまでの期間に急に大きな金額が必要となっても、企業型確定拠出年金からは引き出せません。
また、途中でやめたいと希望しても、解約できません。ただし、強制的に老後の資金を形成できるため、手元にお金があると使ってしまう人には向いている制度です。
元本割れのリスクがある
企業型確定拠出年金は、掛金を拠出して運用を行う仕組みのため、運用結果によっては元本割れが起こる可能性があります。ただし、企業型確定拠出年金には「元本確保型」と「元本変動型」の2つの商品があります。
元本確保型の商品を選んでおけば、元本割れの心配はありません。運用したい商品がどちらのタイプであるかを確認し、もし元本変動型であった場合は、元本割れの可能性があると理解しておきましょう。
運営管理機関の選択ができない
企業型確定拠出年金は企業側が運営管理機関を指定するため、従業員側で運営管理機関を選択することはできません。運営管理機関によって運用できる商品は異なり、従業員が希望している商品を運用できない可能性もあります。また、運営管理機関によって手数料も異なります。従業員側が手数料の安い運営管理機関を希望していても、そちらを選んで運用することはできません。
将来の給付額が減る可能性がある
企業型確定拠出年金のうち、選択制で掛金拠出を選んだ場合、厚生年金の受給額や健康保険・雇用保険の手当などが減る可能性がある点を知っておきましょう。選択制の企業型確定拠出年金は、給料の一部を掛金として積み立てます。この場合、企業型確定拠出年金の掛金は給与とみなされないため、月額給与額が減ります。
例えば、月給が28万円の場合、通常であれば厚生年金や健康保険、雇用保険の基となる標準月額報酬は28万円で計算されます。しかし、月給28万円から毎月従業員が3万円拠出する場合は、標準月額報酬は25万円で計算されるため、28万円で計算した時よりも受け取れる給付額が減少する仕組みです。
配偶者は加入できない
企業型確定拠出年金は、企業に勤務している従業員が対象の年金制度です。そのため、従業員が扶養している配偶者や家族は加入できません。配偶者の年金を手厚くしたい場合は、iDeCoを活用するか、配偶者の勤めている企業型確定拠出年金を利用するなどの必要があります。
iDeCoとは
iDeCoとは個人型確定拠出年金のことであり、自分が拠出した掛金を運用し、原則60歳以降に受け取る年金制度です。企業型確定拠出年金とは異なり、掛金の拠出から運用までをすべて自身で行う必要があります。iDeCoへの加入条件は、満20歳〜65歳未満の公的年金の被保険者であることです。ただし、以下の条件に該当する人は、対象外となります。
• 現時点で国民年金の支払いをしていない人や、免除などを受けている人
• 農業年金に加入している人
• 勤め先の企業型確定拠出年金で事業主掛金に上乗せして、マッチング拠出をしている人
iDeCoの掛金の上限額は、以下の通りになります。
加入資格 | 拠出上限額 |
---|---|
第1号被保険者・任意加入被保険者 自営業者など |
月額6.8万円(年間81.6万円) 国民年金基金または国民年金付加保険料との合算枠 |
第2号被保険者 会社員・公務員 |
会社に企業年金がない場合:月額2.3万円(年間27.6万円) 企業型DCとDB等の他制度に加入・DB等の他制度のみに加入している(公務員含む):月額5.5万円-各月の企業型DCの事業主掛金額(上限は月額2万円) |
第3号被保険者 専業主婦(夫) |
月額2.3万円(年間27.6万円) |
運用を行った掛金は、60歳以降に一時金として一括で受け取る・年金として受け取る・一時金と年金を組み合わせて受け取るの、3つの方法から受け取り可能です。iDeCoは老後の資金を作る制度のため、早いうちから老後の生活に備えておきたい人におすすめの制度です。
企業型確定拠出年金とiDeCoの併用条件
iDeCoの掛金上限額を見てわかるように、企業型確定拠出年金とiDeCoは併用可能です。しかし、併用するためには、以下の要件を満たしている必要があります。
• 各月の企業型DCの事業主掛金と合計して月額5.5万円を超えていないこと
• 企業型DC・iDeCoの掛金が各月拠出であること
• 企業型DCのマッチング拠出を利用していないこと
iDeCoでは年1回の掛金納付や納付月の指定が可能ですが、企業型確定拠出年金と併用する場合は、各月拠出に設定しておく必要があります。
企業型確定拠出年金とiDeCoと併用するメリット
企業型確定拠出年金とiDeCoと併用するメリットをご紹介します。併用を検討している方は、ぜひご確認ください。
拠出額の限度額いっぱいまで掛金の支払いができる
企業型確定拠出年金とiDeCoを併用すると、拠出額の限度額いっぱいまで掛金の支払いが可能です。企業型確定拠出年金は、事業主掛金の決め方が決まっており、従業員が自由に掛金を決めることはできません。そのため、従業員によっては事業主掛金の上限額である5万5,000円に達しておらず、枠を余らせている場合があるでしょう。
iDeCoと併用をすると、拠出可能枠の有効活用ができるようになります。例えば、企業型確定拠出年金で毎月4万円を拠出している場合、iDeCoに加入すれば残りの1.5万円を積み立てて、5万5,000円までの枠をフル活用できます。企業型確定拠出年金の掛金が少ない人は、iDeCoとの併用でより多くの積み立てができるでしょう。
選択肢を増やせる
企業型確定拠出年金は運営管理機関を企業側が指定しており、運用商品も決まっています。しかし、iDeCoは運営管理機関や運用商品を自分で決められるため、運用の選択肢が増やせます。iDeCoは手数料や運用をしたい商品などから、金融機関を決めて口座開設ができるため、併用によってより自由度の高い運用が行えます。
企業型確定拠出年金とiDeCoと併用するデメリット
企業型確定拠出年金とiDeCoを併用するには、主に以下の3つのデメリットがあります。知らずに併用して損をしたとならないように、事前にご確認ください。
マッチング拠出との併用不可
併用要件にも記載されているように、企業型確定拠出年金でマッチング拠出を行っている場合は、iDeCoとの併用はできません。iDeCoとの併用を検討しているなどの場合、まずは自身の企業型確定拠出年金の運用状況を確認しましょう。
退職金の受け取り時に注意が必要
退職金を受け取る際に利用できる、退職金所得控除について注意しておく必要があります。2025年4月から、iDeCoの受け取り時の退職所得控除に関するルールが変更されます。現在は、iDeCoや企業型DCを老齢一時金として受け取った場合、重複期間を除いて計算する期間が5年未満になっています。
今後はiDeCoや企業型DCを老齢一時金として受け取った後の翌年から、重複期間を除いて計算する期間が10年未満へと変更されます。そのため、退職所得控除の枠はiDeCoや企業型確定拠出年金、退職金のいずれかでしか利用できなくなるでしょう。ルール改正後は、iDeCoと企業型確定拠出年金と退職金の受け取り時期について、改めて検討をする必要があります。
転職や退職時には手続きが必要
企業型確定拠出年金を利用している途中で転職や退職をした場合は、手続きが必要です。新たな企業で企業型確定拠出年金を利用すると、拠出額が変更となる可能性があります。iDeCoを併用している場合、企業型確定拠出年金の拠出額が変わると、iDeCoの拠出額も変更する必要が出てきます。
また、転職前の企業型確定拠出年金をどのようにするかも決めましょう。これまでの企業型確定拠出年金を次の企業の企業型確定拠出年金やiDeCoへ移管するなど、対応を考えておきましょう。
まとめ
企業型確定拠出年金についてメリット・デメリット、iDeCoとの併用などについてご紹介しました。企業型確定拠出年金は、企業が掛金を拠出して従業員が運用する年金制度です。税制優遇を受けながら老後資金を形成できるため、将来に備えたい人には嬉しい制度です。
企業型確定拠出年金とiDeCoを併用すると、企業型確定拠出年金では使いきれなかった分までフル活用できるようになります。また、運用商品の選択肢も増えるため、さらに手厚く将来の備えを用意しておきたい人には最適です。企業型確定拠出年金を活用して、老後の生活資金を作っておきましょう。