超高齢社会を迎えた日本における、「70歳定年」の必要性とは?
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- 公開日:2025年2月 5日

日本では、70歳までの就業機会の確保を企業の努力義務とする「改正高年齢者雇用安定法」が2021年4月1日に施行されました。本日は、そんな70歳定年の必要性についてまとめて参ります。
この記事の目次
高齢化社会における、定年延長の必要性
日本では、高齢化がハイペースで進んでいます。総人口が減少する中、昨年は65歳以上の人口が3625万人と、過去最多を記録しました。世界でみても65歳以上の人口割合は最高水準を誇ります。さらに、日本では高齢化だけではなく少子化も歯止めがかからなくなっています。
日本の総人口は、2008年をピークに減少しはじめ、現在では10人に約3人が65歳以上の高齢者となっているのです。また、2025年には団塊世代が75歳以上となり、4人に1人が後期高齢者という超高齢化社会が到来するとされているため、今後日本社会では労働力不足や医療・介護費の増大が懸念されています。
そんな中、70歳までの就業機会の確保を企業の努力義務とする「改正高年齢者雇用安定法」が2021年4月1日に施行されました。この法律によって企業には65~70歳までの就業機会を確保するようにと、企業に努力義務が課せられることとなりました。
以前の「高年齢者雇用安定法」では、企業は希望者に対して65歳まで雇うことが義務付けられていましたが、「改正高年齢者雇用安定法」では、65歳までの雇用が義務化されたのです。
65~70歳までの就業機会を確保するために設けられた、「改正高年齢者雇用安定法」での具体的な施策は以下のいずれかになります。70歳定年はいまだ義務化ではないものの、政府は企業に選択肢を与えることで、少しでもシニアの活用を促しているというわけです。
〈施策〉
・70歳までの定年延長
・定年制の廃止
・70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入
・70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
・70歳まで事業主が実施・委託等をする社会貢献事業に継続的に従事できる制度の導入
総務省よれば65歳以上の就業者数は914万人と、20年連続で増加し、こちらも過去最多を更新したといいます。さらに、65~69歳の就業率でみれば52%と、2人に1人が働いていることになります。医療や福祉の分野でいえば、65歳以上の就業者は10年前の約2.4倍といいますから、65歳以上のシニアたちの就業によって支えられている産業も増えていることが明白になっています。
そして、2021年6月には国家公務員の定年を60歳から65歳に段階的に引き上げる「改正国家公務員法」が成立したことは皆さんの記憶にも新しいでしょう。60歳の公務員の定年を2023年度から2年ごとに1歳ずつ引き上げ、2031年度には定年が65歳になるというものです。
それに加え、2023年4月1日からは60歳以上の職員給与は従前の7割に抑えられ、「役職定年制」も導入されています。民間だけではなく、公務員においてもなるべく長く働ける仕組みが整ってきているのです。このような70歳定年制度の必要性が叫ばれる背景の一つには、社会保障問題があります。
2040年には高齢者の人口が全体の4割前後となり、現在の社会保障制度のままだと社会保障給付費は約190兆円にのぼると言われています。それにも関わらず、日本では少子化が進んでしまっているため、このままでは今の社会保障制度自体を維持することが難しいと言わざるを得ません。こうした要因も含めて、日本では「70歳定年」の必要が迫られているというわけです。
データ元:総務省統計局「統計からみた我が国の高齢者-「敬老の日」にちなんで-」
70歳定年制度のメリットとは?
では、「70歳定年」におけるメリットをみていきましょう。
老後の生活が安定する
70歳まで働き続けられれば、その間にも安定した収入を得ることができます。老後の資金確保や年金受給年齢の引き下げなどといった問題がある中、毎月安定した収入を得ることは生活基盤を支えることに繋がるでしょう。
セカンドキャリアを考えられる
これまでのキャリアとは異なるセカンドキャリアを見つめ直すこともできます。例えば、趣味やライフワークを仕事にする人もいるかもしれませんし、夢だった開業という選択肢を持つ人もいるでしょう。
生きがいを感じられる
これまで一生懸命働いてきた場合、定年後に何をしたらいいかわからないという方も意外に多いです。しかし、70歳まで働くことで社会とより長い間繋がることができるため、生きがいも感じやすくなります。
定年後の無気力な状態が続くと、うつ病を発症してしまうリスクも。70歳定年によって生きがいや張り合いを感じられることは、心身ともに健康を保つことができる、メリットの一つでしょう。
人材不足の解消
少子高齢化が進めば、いずれ日本では働き手が不足してしまいます。現に、担い手がいないため、廃業や倒産に追い込まれている企業も少なくありません。そのため、定年を延長することによって人材を確保できることは企業にとっては大変プラスになります。また、シニアたちが蓄積したノウハウを若手に教える時間が増えるため、社内全体の技術やスキル向上にも繋がるというわけです。
70歳定年制度のデメリットとは?
では、反対にデメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。
モチベーションが低下するリスクがある
現在、60歳を迎えた社員に対して、定年延長よりも再雇用を採用している企業が8割以上とされています。その理由は定年延長よりも再雇用の方が給与を大幅にカットでき、人件費を減らせるからです。
定年の延長より人件費を圧縮できる再雇用をすることで企業は負担を減らせるかもしれませんが、これまでと同様に働くシニアたちにとっては雇用形態の変化による給料の安さから、モチベーションが下がってしまうことも考えられます。
人件費の上昇
70歳までの人材雇用をする場合、企業側にとっては人件費の上昇はデメリットの一つでしょう。賃金だけではなく、福利厚生といった部分でも会社負担が増えてしまうのです。また、多くの企業では年功序列を採用していることもあり、若年層よりもシニアの雇用には人件費がかかりやすい点があります。
若い社員への影響が増える
70歳定年制を採用すれば、若年層の雇用機会が減少するリスクがあります。また、シニア層が増えることで年齢の壁がある若者からみればコミュニケーション形成が難しいといったことも考えられます。そして、シニアの層が厚ければ出世や昇給が難しい、とモチベーションの低下が起こり、若年層の優秀な人材が会社に残らないといった事態も考えられます。
健康寿命が大切になる
平均寿命は延びているかもしれませんが、シニア層になると大切になってくるのが健康寿命です。いくら定年が延びたからといっても健康でなければ長くは働けません。その点からいってもシニアは若年層よりも健康状態に個人差が大きいため、体力の低下や健康上の不安を抱えながら仕事をしなければならないリスクが存在します。
70歳定年で、抑えておきたいポイントとは?
では、70歳定年で抑えておきたいポイントはどこにあるのでしょうか。
在職老齢年金
定年が延びることでこの在職老齢年金については必ず触れておかなければなりません。これは、60歳以降に働きながら受け取る厚生年金のことをいいます。そして、毎月受け取る厚生年金受取額は賃金に応じて減額され、場合によっては全額支給停止になります。
2022年4月1日からは60歳以上で、毎月の厚生年金受取額と賃金の合計額が月47万円を超える場合には、毎月の厚生年金受取額が減額されることが決まりました。一方、老齢年金の繰下げ受給は上限となる年齢が70歳から75歳に引き上げられ、1ヵ月繰り下げると年金額は65歳時点の基準額の0.7%増となり、75歳から公的年金を受け取る場合は同基準額の1.84倍になります。
こうした制度により、各個人の働き状況で老後の資金形成が変わってくるのを覚えておきましょう。どちらが良い、悪いではなく、70歳定年ではご自身の働き方と年金の受け取り方を改めて考えておくべきでしょう。公的年金は、少子高齢化によって深刻な状況に陥っています。かつては65歳以上の高齢者1人を10人以上の現役世代が支えていましたが、2065年には高齢者1人に対して現役世代は1.3人という比率になると、予想されているのです。
現役世代の負担軽減と財源確保のため、政府は公的年金の受給開始年齢を段階的に引き上げてきました。しかしながら、それだけでは日本社会を支えることは難しく、高年齢者雇用安定法で定年の引き上げを行うことによって、アクティブシニア層を社会で活用する方向性が取られてきた実態があります。70歳定年も、その延長線上で議論されていると言えるでしょう。
継続雇用制度
継続雇用制度には、「再雇用制度」と「勤務延長制度」の二つの種類があるります。
再雇用制度は定年でいったん退職とし、新たに雇用契約を結ぶ制度のことです。勤務延長制度とは、定年で退職とせず引き続き雇用する制度をいいます。
現在8割以上の企業が、再雇用制度を採用しています。こちらは定年退職後、あらためて新しい雇用契約を結ぶため、雇用形態や給与、勤務日数などの労働条件を変えることが可能だからです。しかし、勤務延長制度では、労働条件はそのまま引き継がれることが多いため、コスト面からも採用する企業が少ないのです。
このように、同じ会社で雇用されるといっても雇用制度によっては大幅に条件が異なっている場合もありますから、70歳まで働けるといっても事前にきちんと雇用条件や契約期間、各種手当を確認してから、業務に臨むようにしましょう。
データ元:独立行政法人労働政策研究・研修機構「70歳までの就業確保措置を実施済みの企業は29.7%で前年から微増」
まとめ
高齢社会を迎え、ますますシニア層の活躍が期待される日本。これからの経済発展のためにも、70歳定年については今後も活発に議論されていくでしょう。