【Well-Passインタビュー】断捨離を知り、人生が整った私。今度はそれを伝える番
- 100年時代のライフデザイン
- 公開日:2023年3月13日
50代で独立を決意された原田千里さん(60歳)。現在は断捨離トレーナーとして、全国を駆け回る日々を過ごしていらっしゃいます。今回はそんな原田さんの、セミナールームとしても使われるご自宅でお話しを伺いました。
この記事の目次
キャリアのスタートはファッション業界
静岡県で生まれ、高校を卒業。何かしたいことが見つかった時のためにお金を貯めようと就職を考え、メーカーの事務職として働き始めました。当時、まだ副業という働き方は主流ではありませんでしたが、とにかく若かった私は体力とエネルギーだけは十分にあり、ダブルワークをしていました。
そうして1年ほど働き、ある程度貯金も出来たころに、会社を辞めて上京することを決めたのです。周りの大人や友人は何しに行くの、どうして行くの?と理由がなく、東京に進出する私を心配していました。ただ、私は目的こそなかったものの、あらゆるものを見てみたいと思っていたんです。その上でやりたいことに出会えるかもしれないな、と。
東京に出てからは、原宿でアパレルのバイトを始めました。好きな洋服に囲まれて働けるのは楽しかったですね。けれど、23歳になる頃にそろそろきちんとした仕事に就かないと、と思い始めました。そこで、求人情報雑誌を見て、ファッションビジネス企画会社の社長秘書へ応募したんです。
結果、秘書ではなく、営業職として採用されました。私の元気がある姿を見て、営業部門の方がいいなと思ってくれたみたいです。メーカーからの依頼を受けて、ブランド展開や店舗売上げの拡大を請け負うプロジェクトの一員として、実務の中で学ぶ。これが私のキャリアのスタートになりました。
ファッションビジネスといえば、華やかな印象を抱かれることも多いですが、実際の仕事は地道なことが大半で、売上目標達成に向けて数字を追いかける日々でした。当時は働き方改革という言葉もない時代ですから、がむしゃらに働きましたよ。けれど、目標を達成して上司に褒めてもらうことがすごく嬉しかったんです。
業績回復には、そこで働く人のマインドが何よりも重要だと気づく
ファッションビジネスは、社会心理学や集団心理行動に通じるものがあります。働くうちに、人がファッションや流行を求める、購買時の心理が分からないと仕掛ける側に立てない、ファッションビジネスの根本は掴めないなと思い始めました。もちろん、実務の中でも学べることは多くありましたが、もっと理論を基本から勉強したいと考えたのです。
そこで、28歳で大学の社会心理学科(通信教育課程)に入学。働きながら、スクーリングも両立し、4年半をかけて卒業しました。働きながら大変だったでしょ、と言われることが多いですが、そんな風には思いませんでした。会社とキャンパスの距離も近かったですし、恵まれていたと思います。しかし、後に通信教育で卒業する方は全体の2パーセントくらいしかいないと聞き、決めたことを決めた通りにやり終えたことは、大きな自信になりました。
この頃、日本社会はバブルの終わりを迎えていました。会社の動向やファッション業界全体も、新ブランドを展開していくというよりは、既存店の売上を回復する方に舵取りをするようになっていました。私の業務も、転職したのかと思うくらいがらりと変化しました。
ところが、それが私にとっては向いていたんですよね。売上の芳しくない店舗は、ついつい在庫を過剰に抱える傾向にあります。商品を絞り込めていないがゆえに、売りにくい体制や店舗になってしまっているのです。そこで私は、まずは物量を見直すことから始めました。
コンセプトに合わないものは店頭から外し、お客様に対するメッセージ(ファッションを通じて手に入れて欲しい生活や気分)を表現すること、そのメッセージを裏切らない品揃えと接客サービスを展開できる体制に変更していきました。すると、これまでただ陳列されていただけの商品がイキイキと輝き、一部の店頭のスタッフからは「これなら売れる、売りたい!」という声も聞こえてきました。売上もV字回復していきました。
しかし、回復した売り上げが持続しない店もあり、その理由が「働く人の気持ちにある」ことに気付き始めました。私と店舗スタッフとの信頼関係や、働くスタッフのモチベーションが売上を左右すると悟ったからです。当時の私は、「こうすれば絶対売れるから!」と一方的にスタッフに熱量をもって説明しました。スタッフたちも一旦は動いてくれますが、見ていないところではサボってしまうなど、スタッフとの関係構築ができていないことを感じました。
そこで、独りよがりになっていては仕方がないと、自己啓発を学び始めたんです。まずはコーチングを学び始めました。当時の私は、やる気のない人をやる気にさせるのがコーチングだと勘違いをしていたんです。そういう認識でスタートしましたが、初日から「人をどうこうする前に、まずは自分ですよ」と教えてもらい、ハッとしました。
計画は完璧、あとはやる気のない人たちにやる気になってもらう仕掛けが必要だ、と思っていた認識そのものが覆させられました。説明の仕方や、やる気にさせる仕掛けはテクニックを磨けば何とかなると思っていたのが、まさか自分の仕事に向き合う姿勢や生き方を見直すことになるなんて思ってもみなかったんですよ。
学べば学ぶほど面白いと感じ、講師資格まで取得。そして、実際に大学で講座を受け持つようになりました。社会人の方向けのクラスでしたが、皆さん少年少女のように目を煌めかせて参加されるんです。私もそうでしたが、自分の内面に意識を向けることなんてなかったですから。自分を知ることで自分を活かすことができ、人の心を動かすのはその先のことだと知ることができました。この気づきは、その先の人生を歩む上でとても重要なカギだったと思います。
学ぶことは選択肢を増やすことになり、その都度、自分で決断をするんだという自覚を持つようになりました。いろんな角度から自分を知りたくなり、産業カウンセラーや、交流分析、アンガーマネジメントなど幅広く知識を付けていったのです。
断捨離で人生の軸が整っていく。人間関係も良好に
コーチングを学んでからは、劇的にスタッフたちの動きを変えることができました。これまでは、一方的に「これしてください!」と対峙した結果、どうして人は動いてくれないんだろう、と問題を他人のせいにしていました。しかし、"まずは自分が変わることが他人を変えるの近道"ということに気が付き、相手の話を真摯に聞くことで相手の本音に触れられるようになったんです。
すると、スタッフたちとの信頼関係も生まれ、店舗の売上も倍増し、同じ店とは思えない程に変化するようになりました。スタッフも店舗も働く環境は変わっていないのに、結果が目にみえて変わったのは、私のマインドが変化し、それがいい相互作用を生み出したからだと思います。それからは一層仕事に身が入り、それがさらに相乗効果となって成果に繋がっていきました。
こうして、学びながらキャリアを重ねてきた私でしたが、家の中はとんでもないことになっていました。家を購入した時は、友人を招いてホームパーティーをしたいという夢も抱きましたが、とても人を呼べる状態ではありません。帰ってもくつろげないので、なるべく外で時間をつぶして寝るために帰る、という状態でした。
家だけでなく、会社のデスクも整理できていない状態で、小さな空きスペースで仕事をしていました。現在進行中の資料とすでに終わった資料がごっちゃになり、必要な時に必要な資料が見つからない、文房具がすぐ行方不明、コピーをした資料が見当たらなくなると誰かが隠したのではないかと疑ったり、心が歪んでいました。デスクの空間も心も時間も余裕がなくなっていたんです。
そんな時に出会ったのが断捨離。"部屋の状態は、住まう人の心の状態を表している"と聞き、まさにそうだと思いました。
まずは会社のデスクの断捨離に着手しました。山積みの資料を、過去・現在・未来という時間軸で選別し、「実績を証明するための資料(過去)」「いつか使うかもしれない参考資料(来るかどうかわからない未来)」を捨てることに。今に集中できない理由が、目の前にあったなんて目から鱗でした。
それまでは、仕事に集中できないのは、重要とも思えないミーティングや問い合わせに自分の時間を分断されるからだと思っていました。報告が足りないとか、もっと効率よくなどと指摘をもらうたびに、現場を知らないくせに!と憤っていました。机に積み上げた資料は、「私、こんなに会社に貢献しているんです!これ以上、責めないでください。」という主張であり、自己防衛だったのです。
断捨離で身の周りも心も調ってくると、頑張ってきたことを認めていないのは自分かもしれない、過去の実績の証拠品を並べて安心しようとしていただけなのかもしれない、と思うようになりました。そして、よく考えてみたら、私の報告は不足してるなと、客観的に認めることができました。そうして、人間関係もだんだん良好になっていきました。仕事もずっとやりやすくなり「物を片付けることが人間関係の改善にも繋がるんだな」と、断捨離がもたらしてくれる多くの僥倖に気付いたのです。
独立を決意。人生、決めた時から始めればいい
会社の机の整理を始めたのと同時に、住まいの断捨離も開始。この時、すでに断捨離トレーナーになりたいと講習をスタートさせていた私に、最大の試練が訪れました。トレーナーになるための最終試験は、自宅チェックなんですよ。いくら理論を理解して人に話せても、自身の住まいがちゃんと片付いてなかったらダメでしょ、と先輩トレーナーのチェックがあるんです。
そこで、意を決してこれまでにない大断捨離を行うことに。実は、それまでに捨ててきたモノは、壊れていたり、汚れていて使う気にならないモノや、流行おくれで着る気にならない洋服など、明らかな不用品でした。読んでいない大量の本や途中でやめてしまった習い事のテキストや資料、ほぼ使うことのなかった健康器具などは"いつか使うかも"、"まだ使えるし捨てるのは勿体ない"と捨てられずに残っていました。
東京で一人暮らしを始めてから、頑張って働いて得たお金でひとつづず、手に入れてきたモノたちです。かつては暮らしを豊かにしてくれたモノたちです。仕事を頑張った戦利品のような気がして、手放すには勇気が必要でした。しかし、今はもったいないなどと言っていられません。
断捨離は、使わないモノたちで埋め尽くされた空間で、「くつろげない」と言って暮らしている方がもったいない状態だと教えてくれました。教えを実践する時が来たのです。そして、2トントラック2台分、処分しました。
空間を取り戻した住まいは、私に大きな力を与えてくれました。解放感と爽快感、心の底からエネルギーが満ちてくる感覚、制限のない自由な発想、空間のチカラはスゴイ!と驚きました。そして、無事にやましたひでこ公認断捨離®トレーナーになることができました。
断捨離トレーナーの講習を受けているうちに≪~したいのにできない≫という言葉が、常に頭の中にある状態になりました。この言葉が自分のキャリアへの問いにもなっていたのです。「私、独立したい」と思っているのに、動いてないじゃないかと。
それでも、やっぱり怖かったんです。生活もかかっていますし、失敗したらどうしようと不安でいっぱいでした。さらに、50歳という年齢にも怖気づいてしまっていました。独立する場合、これまでコンサルタントとして関わったクライアントや人脈は、関係を解消しなくてはならない決まりでしたので、一からやるパワーやエネルギー、何よりも勇気が必要でした。
それでも意を決して、独立する旨を当時の会社社長に伝えると、納得してくれたのと同時に「俺もやめようかな」と言い始めたんです。その後、本当に会社を畳むことになったのには驚きましたが、私の夢を聞いていくうちに、彼も夢を追いかけたくなったようです。
それから1年をかけて会社を畳む手伝いをし、なんとクライアントのうち1社を私が引き継げることに。0からの独立ではなく、クライアントを抱えて独立できたのは本当に幸いでした。見切り発車には近かったですが、「何とかなる!」「きっと大丈夫」と、自分に言い聞かせて一歩前に進むことができたのです。
自分のやりたいことがわからない、好きなことがわからないという方へ
独立してからは、やましたひでこ公認断捨離®トレーナーとして、企業セミナーや個人宅での個別サポートまで、幅広く活動しています。出張依頼を受けることも多く、断捨離トレーナーになっていなかったら出会えなかった方々との出会いに感謝しながら日々を過ごしています。
会社員時代の体験と断捨離トレーナーの活動は全く畑違いと思っていましたが、店舗の売上回復を担っていたことは、個人宅の断捨離をサポートする際に役に立つことがわかりました。「魅力的な店創り」と「暮らす人が胸躍る住まい創り」は似ています。店舗も個人宅も、エネルギーが停滞し混沌とした状態から抜け出すには、過剰なモノを減らすことが入口。
モノを減らして空間を確保することで、「こんな暮らしがしたい」という思いが巡りだすのです。その思いを実現すべく、さらなるモノの厳選、家具やインテリアも選び抜き、配置していくのです。店舗の売上回復は在庫回転率が上がること、個人宅でもモノはどんどん活用し、どんどん入れ替えていく。新陳代謝を促す意味、価値、方法を知っていたことは大いに役立ちました。
カウンセリング、コーチングで身につけた傾聴技術も大いに活かせました。捨てたいのに捨てられない、片づけたいのに片付かないと訴える方の多くは、捨てたくない、片づけたくない理由があるのです。ご本人も無自覚になっている心の問題ですから、私にもわかりません。本人も私もわからないコトは、本人に語っていただくしかありません。
潜在意識への気づきは、断捨離トレーナーが教えたり指摘するのではなく、ご本人が自分のタイミングで目覚めていくプロセスが大事です。相手の気づきのプロセスに寄り添える素養を持ち合わせていたことは、大きな助けとなりました。人生に無駄なことは何ひとつないんだな、と実感しています。
物を片付けたことによって心に余裕が出来て、夫婦関係が良好になったという方もいらっしゃいました。断捨離の面白いところはここにあるなと思います。心の余裕は空間づくりから、そして断捨離を通して人生も整ってくることが興味深いなと感じています。
生きていると、「やって後悔」「やらなくて後悔」のどちらもありますが、「やって後悔」には体験が残ります。「体験価値」に焦点を当てれば、限りある人生でどれだけの体験を積み重ねられるでしょう。人生の最後の日に、行きたいところがあるのに行かなかった、会いたい人がいたのに会わなかった、と後悔したくはないですね。
やりたいことをやりましょう。時間があったらとか、お金があったらとか、家族が許してくれたらという制限は、自分が勝手に作っているに過ぎない場合がほとんどです。自分の時間は自分のために使っていい。私はこれまで十分頑張って生きたのだから自分のためにお金を使ってもいい、自分の思いを伝えれば家族はきっと賛成してくれます。気持ちを伝えていないのに「反対されたら」「嫌な顔をされたら」などという、望まない妄想をしてあきらめるなんてナンセンスです。
私は「できればいつもゴキゲンな状態で過ごしたい」と思っています。でも、自分の身に起きる出来事や他人の発言、行為はコントロールできません。思いがけない不本意な外的要因でゴキゲンでいられなくなることもあります。
そんな時に、いち早くゴキゲンな状態に立ち戻るれるとっておきの方法があります。それが断捨離です。自分の身の回りの環境を整えて、空間と心と時間に余裕があれば、「まぁ、いいか、そんなこともあるさ」と、いち早くゴキゲンな状態に戻れます。
断捨離は自分次第でできることです。自分の機嫌は自分でとる、大人なら当たり前のことかもしれませんが、外的要因の影響を受けている人は案外多いと思います。そんな方には、断捨離をおススメしたいですね。
断捨離を始めるのに年齢は関係ありません。自分のやりたいことがわからない、好きなことがわからないという方にも、断捨離は有効です。自分の好き、やりたいを感じなくさせている「阻害要因」を取り除いていくのです。「阻害要因」は必ず目に見えるモノとして、身の周りあります。
恐れや不安、思い込みなどの心のブレーキを外すのは容易ではありませんが、思いの証拠品としてのモノを捨てれば、モノに張り付いた思いも一緒になくなります。実践した人だけが実感できることなので体験としてお伝えすることしかできませんが、私も50歳で断捨離を知り、住まいを調え、心を調え、本当にやりたいことに人生をシフトすることができました。
断捨離で培ったモノの取捨選択のチカラは、ビジネス場面の「選択・決断の力」となり、今に集中できる環境に身を置くことはビジネスのパフォーマンスを引き上げてくれています。断捨離と出会って10年、昨年還暦を迎えました。断捨離トレーナー10年目の私の活動に是非、注目していただけたらと思います。
▲セミナーなど、オンライン配信にも使用されるご自宅
まとめ
原田さんのお部屋は整っているのはもちろん、デザイン性溢れるおしゃれな空間でした。こんな部屋で生活できたらなと憧れを抱き、取材後にすぐに私も断捨離を始めました。
原田さんの素敵なお部屋に感化されながら、段ボール3箱分の書籍や資料、そして洋服を整理しました。片付けがまさか心を整えるだなんて知りませんでしたが、実際に片付けをしてから、私の心は晴れています。