配偶者居住権とは?メリット・デメリット、活用事例などをわかりやすく解説
- ライフプラン・人生設計
- 公開日:2025年9月11日
配偶者が亡くなった後、残された人の抱える不安のひとつとして、住まいの問題があります。その不安を減らすための制度が2020年に設立されていますが、知らない人も多いでしょう。今回は配偶者が亡くなった後も自宅に住み続けられる、「配偶者居住権」について説明します。概要はもちろん、メリット・デメリットや活用場面も解説しているので、配偶者が亡くなった後の住む場所に不安がある人は、ぜひご一読ください。
この記事の目次
配偶者居住権とは、家の持ち主が亡くなった後も配偶者が住み続けられる権利
配偶者居住権とは家の持ち主が亡くなった後も、同居していた配偶者が引き続きその家に住み続けられる権利のことです。建物の価値を「所有権」と「居住権」に分けて考え、残された配偶者が所有権を持っていない場合でも、居住権を取得できれば引き続き同じ家に住み続けられるようにするものです。
配偶者居住権ができた背景
配偶者居住権は2020年に設立されたばかりの、比較的新しい制度です。設立された背景としては、これまでの相続の考え方があります。従来、残された配偶者が家を取得するためには所有権の取得か、建物の所有権を相続した人から有償または無償で借りる方法のみでした。
所有権を取得した場合は、所有権だけで相続分相当になるため、他の預貯金や資産などの取得ができなくなる場合がほとんどです。また、家を有償で借りる場合は、想定していなかった出費により、老後の生活資金が足りなくなる可能性が高まります。売却されるリスクもあり、一生涯住み続けられなくなる可能性も十分あります。
これらの問題を解決するために、残された配偶者が生存中または一定期間、無償で居住している建物に住み続けられる権利として、配偶者居住権を設立しました。配偶者居住権は遺贈、または遺産分割によって取得可能です。なお、2020年4月1日以降に作成された遺言あれば、遺言による取得もできます。
配偶者短期居住権とは
配偶者居住権と同じく2020年から、配偶者短期居住権も新設されています。内容としては配偶者居住権と同様に、家の持ち主が亡くなった際に、その配偶者が自宅に住み続けられる権利です。ただし、配偶者短期居住権は、配偶者居住権とは以下の点が異なります。
• 要件を満たしている場合、自動で発生する
• 存続期間には制限がある
• 実際に居住していた部分のみが対象
• 登記不可であること
• 相続税は発生しない
配偶者居住権は設定が必要になりますが、配偶者短期居住権には設定は必要ありません。家の持ち主が亡くなった時に、所有する建物に無償で居住していれば、原則自動的に権利が発生します。
配偶者短期居住権には、存続期間が設定されています。期間は遺産分割協議がまとまるまで、または協議が早くまとまっても家の持ち主である被相続人が亡くなってから6ヶ月間です。もし、遺言などで配偶者以外の第三者が建物の所有権を相続した場合は、いつでも第三者は配偶者短期居住権を消滅させる申し入れが可能です。
ただし、残された配偶者は申し入れを受けた日から6ヶ月間は、無償で住み続けられます。配偶者短期居住権は実際に配偶者が居住・使用していた部分のみが対象となるほか、登記ができません。また、相続税も発生しません。
配偶者居住権の設定と手続き

配偶者居住権を利用するためには設定要件を確認し、手続きを行う必要があります。要件や手続きの流れ、またもし設定後に配偶者が亡くなった場合について、以下で解説します。
配偶者居住権の設定要件
配偶者居住権が設定できるのは、以下の要件を満たしている人のみです。
• 被相続人の配偶者である
• 配偶者が自宅に住んでいたこと
• 遺産分割や遺贈、死因贈与、家庭裁判所の審判によって取得した
遺産分割は相続人間での話し合い、遺贈や死因贈与は配偶者居住権に関する遺言、または死因贈与契約書がある場合、家庭裁判所は相続人間で遺産分割の話し合いが成立しない場合に行われます。
配偶者居住権はただ要件を満たしているだけでは意味がなく、設定後に手続きを行う必要があります。第三者に対して配偶者居住権を主張するためには、以下の方法で手続きを行いましょう。
配偶者居住権の手続きの流れ
自宅に配偶者居住権を設定するには、所有権を相続した人と共同登記をする必要があります。申請の際は法務局にて、遺言書または遺産分割協議書、建物所有者の印鑑証明書などの必要書類を添付します。登記の際には「建物の固定資産税評価額×0.2%」の、登記免許税がかかる点も知っておきましょう。
登記ができれば、もし建物の所有者が売却をしても、配偶者居住権で対抗できるため、そのまま建物に住み続けられます。ただし、配偶者居住権の登記では土地の登記はできません。
また、配偶者居住権を配偶者に取得させるといった内容の遺言があっても、建物の所有者が指定されていない場合は遺産分割協議を行う必要があります。遺産分割協議の結果、配偶者居住権の登記前に第三者に売却されてしまうと、配偶者は従来の建物に住み続けられません。配偶者居住権を設定するためには、相続人全員の共有の相続登記申請を行い、配偶者居住権の登記を求める必要があります。
配偶者居住権を設定後に配偶者が死亡した場合
配偶者居住権を設定した後に配偶者が死亡した場合は、配偶者居住権は消滅します。消滅後は1次相続で配偶者居住権が設定された建物の所有権を相続していた人が、建物の権利を丸ごと所有する形になります。配偶者居住権を持っている配偶者が亡くなった後、建物に関して所収者に新たに相続税が発生することはありません。
配偶者居住権のメリット
配偶者居住権を使用するメリットを、3つご紹介します。
①今の建物に住み続けられる
配偶者居住権を使用するメリットは、配偶者がこのまま今の建物に住み続けられる点です。従来の相続では建物の所有権を取得できなかった場合、賃料を支払って住むか、新しい家を探す必要があります。売却によって住む場所を追われる必要が無くなるため、安心して生活を続けられます。
➁財産の取り分が減らない
相続が発生した場合、配偶者は財産の2分の1を、残りの2分の1を子どもが当分するのが原則です。これまでの相続の場合、配偶者が建物の所有権を相続すると、残りの資産についてはほとんど相続できない場合が多くありました。
例えば夫が自宅2,500万円、預金3,000万円の5,500万円の財産を残して亡くなった場合、妻は半分の2,750万円、子ども達が2,750万円を相続します。妻が自宅を相続した場合は2,500万円分を相続するため、残りは250万円分の預貯金しか受け取れず、多くの人が自宅かお金かの選択を迫られていました。配偶者居住権を使用すると、妻は自宅の所有権ではなく居住権を相続します。
配偶者居住権の価値は、「建物敷地の現在価値-負担付所有権の価値」で算出します。負担付所有権の価値とは、建物の耐用年数や築年数などを考慮し、かつ配偶者居住権の負担が消滅した時点の建物敷地の価値を算定したうえで、現在価値に引き直して求めることが可能です。基本的に所有権よりも居住権が高くなることはないため、財産の取り分が大幅に減らず、自宅も資産も相続ができるようになります。
➂代償金のリスクを抑えられる
もし不動産の評価額が配偶者の相続分より多い場合、配偶者は他の相続人に対して代償金を支払う必要があります。所有権を相続した際の財産の金額が5,000万円で、自宅が3,000万円だった場合は、余分に相続した500万円分を用意して支払います。配偶者居住権を使用した場合は、所有権より相続の価値が下がる場合がほとんどのため、代償金を支払う必要がなくなる可能性があるでしょう。

配偶者居住権のデメリット
これまでの自宅にそのまま住めるなど、配偶者居住権はメリットがありますが、デメリットもあります。どのようなデメリットがあるのかを知ったうえで、設定をするかどうかを判断しましょう。
相続税が発生する
配偶者居住権を使用した場合も、相続税が発生します。配偶者居住権は、建物の所有権よりは評価が低くなりますが、一定以上の経済価値があると認められているためです。配偶者の年齢が若い場合は存続年数が長いとみなされ、価値が高くなるため、相続税も高くなる可能性があります。
なお、配偶者居住権が設定された建物の所有権を相続した人には、建物の相続税評価額から、配偶者居住権の価値を引いた金額を基準に相続税が課されます。
生前に放棄をすると贈与税が発生する
配偶者が配偶者居住権を設定した後に、「やっぱり老人ホームに入る」などの理由で、配偶者居住権を放棄する可能性があります。配偶者居住権を生前に放棄し、権利を建物の所有者に戻した場合は贈与したとみなされて贈与税が発生します。配偶者が亡くなった場合は、所有者に相続税は発生しませんが、生前に所有者に権利が戻った場合は贈与税が発生することは理解しておきましょう。
配偶者居住権の存続中は譲渡や売却できない
配偶者居住権が存続している間は、物件の譲渡や売却、賃貸はできません。建物の所有者からすると、配偶者居住権が終身存続している場合はいつ物件を再活用できるかわからないため、物件を持て余すことになる可能性があります。また、老人ホームに入所するために、自宅を売却して資産を作ろうとしても配偶者自身では売却が行えません。
所有者が売却を行っても、購入者が住めないために売却自体が成立しない可能性が高くなります。生前に配偶者居住権の合意解除や放棄ができれば売却できますが、配偶者が認知症などの場合は配偶者居住権の合意解除や放棄もできません。簡単に売却できない点は、場合によっては配偶者本人にとってもデメリットとなります。
配偶者居住権の活用場面
配偶者居住権はどのような場面で活用するのが良いか、事例をご紹介します。活用する方が良いか悩んでいる人は、ぜひご確認ください。
配偶者に預貯金や住む家を残したい
配偶者に確実に預貯金や住む家を残したい場合は、配偶者居住権を活用しましょう。もし相続人に前妻との子どもがいる場合などは、基本的に遺産分割協議によって相続内容が決まります。
配偶者が建物の所有権を相続した場合、預貯金などの資産は前妻の子どもに渡ってしまい、配偶者は生活費を確保できない可能性があります。しかし、配偶者居住権を使用すれば、建物の居住権も生活も両方確保しやすくなるでしょう。
相続財産の大半が実家である
相続財産の大半を実家が締めている場合、配偶者居住権を活用するとトラブルを減らせる可能性があります。配偶者居住権は建物の所有権と居住権を分けて考えるため、実家の土地と建物の価値を、所有者と配偶者に分散できます。配偶者の住居確保の問題と、遺留分の侵害リスクも回避できるため、相続争いの防止につながるでしょう。
相続税の節税をしたい
配偶者居住権は所有権を相続するよりも、価値が下がるために相続税の金額が下がる可能性があります。また、配偶者が亡くなった場合は、配偶者居住権が消滅するため、2次相続をした場合に相続税が発生しません。配偶者居住権の活用は従来の相続よりも、相続税の節税につながる可能性があります。
まとめ
配偶者居住権の概要やメリット・デメリット、活用場面をご紹介しました。配偶者居住権は2020年に設立された制度で、家の所有者が亡くなった後に配偶者が自宅に住めるようにするための権利です。これまでの相続では、自宅の所有権を相続すると残りの預貯金を相続できなかったり、所有権を別の相続人が相続したために住まいを追い出されたりといった問題が発生していました。
しかし、配偶者居住権を活用できれば、所有権はなくても自宅に住み続けられるため、安心して老後の生活を送れます。ただし、配偶者居住権は生前に放棄すると、贈与税が発生したり、売却や譲渡ができなかったりとデメリットも存在します。今後の生活をよく考えたうえで、配偶者居住権を設定するかどうかを検討しましょう。








