退職金の受け取りは結局どちらが得?賢く運用する方法や注意点も紹介
- 転職・退職ノウハウ
- 公開日:2025年2月10日

定年を控えているミドルシニア世代にとって、退職金の受け取り方法や活用方法は気になる話題の1つです。今回は退職金の2つの受け取り方法から、税金の額、受け取り方を決めるポイントをご紹介します。また、退職金を活用した資産運用についても解説しているため、退職金の受け取り方を悩んでいる人は、ぜひご一読ください。
退職金の受け取り方は一時金方式と年金方式の2つ
退職金の受け取り方は、一時金方式と年金方式の2つの受け取り方があります。どちらを選ぶかによって、老後の生活の送り方も変わってくるでしょう。それぞれの受け取り方の特徴について、解説します。
一時金方式
退職金を一時金方式で受け取った場合、一括でまとまったお金を受け取れます。一時金方式のメリットは、退職所得控除を利用できるため、所得税や住民税の負担が軽減される点です。また、社会保険料は発生しません。手元に現金が増えるため、お金があるという安心感を得られるでしょう。
しかし、まとまったお金を使いすぎないよう、計画的な支払いプランが必要です。勤続年数が短い場合は、控除額が小さくなる可能性があり、支払い税額が高くなる場合があるなどのデメリットもあります。
年金方式
退職金を年金方式で受け取った場合、分割して退職金を受け取れます。年金形式で受け取った場合は、まだ受け取っていない分の資金を金融機関が運用するため、一時金方式よりも受け取り総額が多くなります。
一度に使い込むことができないため、計画的にお金を使いたい人にはメリットとなる受け取り方法です。ただし、一時金方式と比較すると控除額が小さくなるほか、社会保険料の負担が増える、インフレのリスクがあるといったデメリットが存在します。
併用もできる
退職金の受け取りは一時金方式と、年金方式の併用も可能です。ただし、すべての企業が対応しているわけではないため、勤務先へ確認が必要です。併用して退職金を受け取った場合、一時金には退職所得控除を、年金には公的年金等控除が利用できます。
退職金は受け取り方によって税金の額が変わる
退職金は一時金方式で受け取るか、年金方式で受け取るかによって、税金の額が変わります。どの程度差があるのか、以下でご確認ください。
一時金方式で受け取った場合の税金額
退職金を一時金方式での受け取りは、退職所得となります。
今回は30年間勤続し、2,000万円の退職金を受け取った場合で計算してみましょう。退職所得の金額は、以下の計算式で求められます。
退職所得の金額=(収入金額(源泉徴収前)-退職所得控除額)×1/2
退職所得控除額は、勤続年数によって以下のように変わります。
• 勤続年数が20年以下の場合、40万円×勤続年数(80万円に満たない場合は80万円)
• 勤続年数が20年超の場合、800万円+70万円×(勤続年数-20年)
勤続年数が1年に満たない期間がある場合は、その期間を1年に切り上げて計算します。今回の場合は、1,500万円が退職所得控除です。
納税額を求めるには、(退職金額-退職所得控除額)×1/2で、課税退職所得金額を求めます。退職金が2,000万円だった場合の課税退職所得金額は、250万円です。ここから所得税や復興特別所得税、住民税を計算すると以下の通りになります。
• 250万円×10%-9万7,500円=15万2,500円(所得税額)
• 15万2,500円×2.1%=3,202円(復興特別所得税)
• 250万円×10%=25万円(住民税)
15万2,500円+3,202円+25万円=40万5,702円
一時金方式で受け取った場合は、1,500万円の退職所得控除を利用でき、40万5,702円の納税が必要です。
年金方式で受け取った場合の税金額
年金方式で受け取る場合は、以下の方法で納税額を計算します。
公的年金等にかかる雑所得=年金受け取りの退職金や公的年金の所得金額-公的年金等控除額
公的年金等控除は、年齢によって異なります。
▼60歳未満(令和2年度以降)
収入金額 | 公的年金等にかかる雑所得の金額 |
---|---|
60万円以下 | 0円 |
60万円超130万円未満 | 収入金額の合計額-60万円 |
130万円超410万円未満 | 収入金額の合計額×75%-27万5,000円 |
410万円超770万円未満 | 収入金額の合計額×85%-68万5,000円 |
770万円超1,000万円未満 | 収入金額の合計額×95%-145万5,000円 |
1,000万円以上 | 収入金額の合計額-195万5,000円 |
▼65歳以上(令和2年度以降)
収入金額 | 公的年金等にかかる雑所得の金額 |
---|---|
60万円以下 | 0円 |
60万円超130万円未満 | 収入金額の合計額-110万円 |
130万円超410万円未満 | 収入金額の合計額×75%-27万5,000円 |
410万円超770万円未満 | 収入金額の合計額×85%-68万5,000円 |
770万円超1,000万円未満 | 収入金額の合計額×95%-145万5,000円 |
1,000万円以上 | 収入金額の合計額-195万5,000円 |
例えば、公的年金等にかかる雑所得の金額が120万円だった場合、所得税は120万円×5%=6万円です。
退職金の受け取り方を決めるポイント
退職金の受け取り方を一時金方式と、年金方式のどちらにするか悩んでいる際は、以下のポイントを元に決めましょう。
老後の生活スタイルや働き方で決める
どちらの方式で退職金を受け取るか決める際は、自身の老後の生活スタイルや働き方を考えたうえで決めましょう。定年退職後も厚生年金に加入して働く場合は、社会保険料を会社が支払ってくれるために、自身の負担額を減らしながら受け取りができる年金方式がおすすめです。手元に現金があると浪費しそうと不安な人にも、年金方式は向いています。
反対に、自営業で働く場合や厚生年金に加入しないで働く場合は、一時金方式がおすすめです。また、退職金を利用してローンの返済をしたい、介護費用に充てるといった目的がある場合も一時金方式の方が良いでしょう。老後の生活をどのように過ごしたいか、まとまったお金の使い道を事前に決めておくと、退職金の受け取り方法も決まってくるでしょう。
年金の受け取り時期から決める
退職金の受け取り方法を決める際は、公的年金の受け取り時期も考慮しましょう。もし、公的年金の繰り下げ受給を検討している場合、退職金は年金方式で受け取った方が税額負担などが減る可能性があります。
また、繰り下げ受給であれば、将来受け取れる年金の額は増額されます。反対に通常時期に受給する場合や、繰り上げ受給を検討している場合は、一時金方式でも良いでしょう。
退職金を受け取る際の注意点
退職金を受け取る前に、注意点を確認しましょう。今回は退職金に関する、2つの注意点をご紹介します。
確定申告が必要になる場合がある
退職金の受け取り方法と額によっては、確定申告が必要になる場合があります。
一時金方式で受け取る場合は、勤務先で「退職所得の受給に関する申告書」を提出していれば、原則確定申告は必要ありません。しかし、勤務先で書類を提出していない場合は、退職金の総額から20.42%が一律で源泉徴収されます。また、医療費控除などの控除を利用する際は、確定申告時に退職所得の記入が必要になります。
年金形式で受け取った場合は、その年の公的年金等にかかる雑所得の金額が400万円以下かつ、公的年金等にかかる雑所得以外の所得が20万円以下の場合は、確定申告は必要ありません。公的年金等にかかる雑所得以外の所得には、給与所得や一時所得などが含まれます。自身の受け取り方の場合、確定申告が必要となるか、退職前に確認しましょう。
自己都合退職だと満額支給されない可能性がある
定年退職前に、転職など自己都合による退職をすると、退職金が満額支給されない可能性がある点は知っておきましょう。企業によって勤続年数により、退職金の支給割合などを決めている場合があり、規定の年数を満たしていないと支給されない可能性もあります。
退職金を増やすなら資産運用
退職金を少しでも増やす方法として、資産運用があります。老後の生活は20年以上と長いですが、その期間の収入は少なくなります。少しでもゆとりある生活のためにも、資産運用によって新たな収入源を作りましょう。以下では、おすすめの資産運用を3つご紹介します。
株式投資
株式投資は、株式会社が発行する株式を購入する投資方法です。株式を保有していると、配当金や株主優待を受けられるほか、値上がりしたタイミングで売却できれば売却益を得られます。少しでも安定した投資をするのであれば、売却益を狙うのではなく、配当金を目当てにした投資がおすすめです。
業績が安定している企業や、今後の成長が見込まれる企業で、高配当の株式を選べば、お小遣いを得られるでしょう。ただし、株式投資は元本保証がされていない点と、企業が倒産したら価値がなくなる点に注意が必要です。
投資信託
投資信託は、投資家から集めた資金をプロが運用し、その運用益によって得た利益を投資家に分配する投資方法です。投資信託は100円からと少額で始められ、継続購入ができるほか、複数の投資先を選んで投資ができます。元本割れの可能性がある点や、手数料が発生する点はデメリットですが、リスクを分散して投資できるのは魅力的です。
個人向け国債
国債は、国が資金調達のために発行する債券で、1万円から購入可能です。基本的に元本割れのリスクがないため、満期まで保有すれば元本と利息が受け取れます。ただし、他の金融商品と比較すると金利が低い傾向にあるため、資産を大幅に増やすことはできません。また、購入から1年間は中途換金ができない点も、知っておきましょう。
退職金を運用する際の注意点
退職金を活用して資産運用する際は、失敗をして生活費が無くなったとならないよう、いくつかポイントを意識しておきましょう。今回は、注意しておきたい点を3つご紹介します。
長期・分散・積立を意識する
投資をする際は、長期・分散・積立を意識しましょう。老後の生活は20年程度と長く続くため、当座の生活資金などを確保しつつ、長期的に行う必要があります。また、投資先や投資時期を分散させることも、運用をするうえでは大切です。分散投資ができれば、1つの投資商品の価格が下落しても、他の商品でバランスを取れるでしょう。
そのほか、コツコツと積み立てた投資ができれば、購入価格が平準化されるため、利益が出る可能性があります。一括で購入すると、商品が下落した後の持ち直しが難しくなる場合があるため、できる限りコツコツと積み立てを行いましょう。
よく調べてから購入する
資産運用を始める際は、よく調べてから購入しましょう。人に勧められたから、みんながやっているからといって、理解しないまま始めると損をする可能性があります。必ずどういった運用を行うのか、リスクはどうなっているか、下落した際の対処についてなどを調べて、比較検討したうえで始めましょう。
利益を増やすより維持を重視する
退職金を使用した資産運用を始める際は、利益を増やすよりも維持することを重視しましょう。退職後は現役時代と同等の給与を得て働くのは難しく、収入は減少するのが一般的です。
もし、リスクが高い投資で失敗すると取り返しがつきにくく、その後の老後生活に大きな影響が出ます。老後の資産運用では資産を増やすのではなく、リスクを抑えて資産を守りながら使っていく投資を検討しましょう。
まとめ
退職金には一時金方式と、年金方式の2つの受け取り方式があります。一時金方式は、退職所得控除を利用できるため、所得税や住民税の負担が軽減されます。一方、年金形式で受け取った場合は、まだ受け取っていない分の資金を金融機関が運用するため、一時金方式よりも受け取り総額が多くなるというメリットがあります。
どちらが、自身に合っているか老後の生活をイメージしながら、決めていきましょう。もし、退職金で資産運用を行う場合は、長期・分散・積立を意識しながら、株式投資や投資信託などの方法をご検討ください。