静かな退職とは?ミドルシニアにも増えている働き方のメリット・デメリットなどを解説
- キャリアを考える
- 公開日:2025年7月22日
近年Z世代だけではなくミドルシニアでも、「静かな退職」を選んでいる人が増加しています。今回は静かな退職の概要からメリット・デメリットなどをご紹介します。また、職場に静かな退職を選んでいる人がいる場合の対処法なども解説していますので、業務量や仕事内容に悩んでいる人はぜひ最後までお読みください。
この記事の目次
静かな退職とは決められた仕事だけを淡々とこなす働き方
静かな退職とは仕事にやりがいやキャリアアップを求めず、決められた仕事だけを淡々とこなす働き方のことです。実際に退職をするわけではなく、仕事に積極性を見せずに在籍し続けます。仕事や企業の目標よりも、個人の幸福や充実度を優先させている人たちの働き方です。
2022年にアメリカのキャリアコーチが提唱したことで、20〜30代を中心に広がっていますが、40〜50代でも静かな退職をしている人は一定数存在しています。
静かな退職が広がった背景
静かな退職が広がった背景には、働き方が多様化している点が挙げられます。提唱者のキャリアコーチは「必要以上に働くのをやめる」「仕事が自分の人生でなければならないというハッスルカルチャー的なメンタリティーには賛同しない」と述べたことをきっかけに、上昇思考やガムシャラに努力する働き方に反対する動きが広がりました。
ハッスルカルチャーとは仕事が人生で重要なことと考え、昼夜を問わずに働き続けることです。プライベートとの境界線がなくなり、ガムシャラに働くことで生産性を向上させる、その考えや行動を美徳とする文化を指します。日本ではかつて企業戦士やモーレツ社員などと呼ばれていました。
終身雇用が当たり前だった時代には、働いた分だけ報われるという考えもあり猛烈に働いている人が多くいましたが、現在ではその考えは当たり前ではありません。「報われるかもわからない努力はしたくない」「将来が不安な時に仕事だけをしても意味があるのか」といった考えが増えてきたことが、静かな退職が広がった要因であると考えられます。
また、周囲に理想のキャリアを実現しているロールモデルが存在しないことも、広がった要因と考えられます。もし、尊敬できるロールモデルがいても業務量と給与が見合っていない、昇進しても良いことがない、と感じ働く意欲をなくしてしまうこともあるでしょう。
サイレント退職との違い
静かな退職によく似た言葉に、サイレント退職があります。静かな退職は、会社に在籍をして最低限の仕事だけをこなす働き方です。一方、サイレント退職は周囲に不平や不満を漏らさず、突然退職をする人を指します。
本人が抱えている不安やストレスを周囲に相談せず、突然仕事を辞めるため周囲の人は驚くケースが多くあります。若手世代にも多いですが、管理職層の人にも多く見られる退職方法です。
静かな退職をしている人はどのくらいいる?

実際に静かな退職をしている人はどのくらいいるのか、マイナビが実施した静かな退職に対する調査結果を確認しましょう。20〜59歳の正社員3,000名のうち、全体の44.5%が静かな退職を「している」と回答しました。年齢別に見ると、以下の通りです。
• 20代:46.7%
• 30代:41.6%
• 40代:44.3%
• 50代:45.6%
若手世代はもちろん、40〜50代でも半数近くの人が静かな退職を選択しています。
また、米ギャラップ社が毎年実施している「グローバル職場環境調査」にて、仕事に対して情熱を持っているか、没頭し充実感を得ているかを調査したところ、世界労働者の約6割は静かな退職を選択しているとわかりました。特に日本は約7割が静かな退職を選択しており、他国よりも多くの人が選択しているとことがわかっています。
静かな退職を選ぶきっかけ
静かな退職を選んだ人のきっかけを確認すると、主に以下の4つのタイプに分類されます。
• 不一致タイプ:現在の職場にやりがいを感じられない、上司と意見が合わないなど
• 評価不満タイプ:結果を出しても給料が変わらない、キャリアアップが望めないなど
• 損得重視タイプ:プライベートの時間を確保したい、コスパがいいからなど
• 無関心タイプ:キャリアアップに興味がない、淡々とこなすのが合っているからなど
参照元:マイナビ 正社員の静かな退職に関する調査2025年(2024年実績)
職場の環境や制度が合わないことで静かな退職を選択するタイプと、仕事に対して意欲や関心がないために静かな退職を選ぶタイプにほとんどが分類できるでしょう。
静かな退職を辞めたい人もいる
マイナビの調査では静かな退職を選択している人への質問で「静かな退職を続けたいか」と聞いたところ、全体の70.4%が続けたいと回答しました。反対に続けたくないと回答したのは29.6%で、ほとんどの人は現状維持で良いと考えているとわかります。
静かな退職を続けたいと回答した人の割合を、年齢別で見ると以下の通りです。
• 20代:64.6%
• 30代:68.3%
• 40代:73.5%
• 50代:73.3%
20〜30代の若手世代は、きっかけがあれば静かな退職をやめて意欲的に働きたいという人が多く、40〜50代になるほど静かな退職の継続を考えている人が多くいます。年齢が上がるにつれて定年退職が見えてくることもあり、このまま波風を立てずに淡々と続けようという人が多いと予想されます。
静かな退職のメリット
静かな退職は、主にこの働き方を選択した本人にとってメリットが多いでしょう。代表的なメリットを3つご紹介します。
ライフワークバランスが両立できる
静かな退職を選択している人は、決められた最低限の仕事だけをして定時になればすぐに帰宅するという場合がほとんどです。そのため残業も少なく、休日出勤もありません。生活サイクルが定まるため、規則正しい生活ができるようになり、疲労の軽減や健康につながります。余暇の時間もできるため、友達との交流や新しい趣味を見つけるなどプライベートを充実させられるでしょう。
業務が安定する
静かな退職という働き方は、決められた仕事をこなすため、新しい仕事へのチャレンジなどはほとんどないでしょう。日々の業務量や業務内容が安定したものになり、ミスなく淡々と進められるようになります。慌ただしく過ごす必要がなくなるため、仕事中も穏やかに過ごせるでしょう。
給与への満足度が高まりやすくなる
静かな退職を選ぶきっかけの1つに、業務量と給与が見合っていないことが挙げられています。頑張っても給与に反映されないから静かな退職を選ぶ人にとっては、最低限の仕事をこなして一定の給与がもらえることに満足しやすくなるでしょう。
静かな退職のデメリット
静かな退職は選択した本人よりも、周囲へのデメリットが挙げられます。どのような問題が出るか、以下で3つご紹介します。
職場の人間関係にヒビが入る可能性
静かな退職を選んだ人が職場にいると、周囲の人との人間関係にヒビが入る可能性があります。最低限の仕事だけを引き受ける人がいると、それ以外の業務は同僚たちへと割り振られるため、周囲の人の業務量が増加します。
「あの人が最低限の仕事しかしない影響で、自分は多くの仕事をしなければならなくなった」と、不満を抱かれるでしょう。組織は周囲の人との助け合いで成り立っているため、困っている時に協力しない人がいると、組織の和が乱れます。周囲の理解が得られない場合は、職場での居心地が悪くなるでしょう。
本人のやる気やモチベーションが下がる
毎日決まった仕事だけをこなすのは刺激が少ないため、本人のやる気やモチベーションがさらに下がる可能性があります。業務内容に飽きてしまい、さらに仕事に向き合わなくなる可能性もあるでしょう。
また、新しい仕事を避けていると、試練を乗り越える経験ができず、逃げ癖がついてしまいます。過度なストレスや刺激は避けるべきですが、適度に新たな壁に挑戦しないと、刺激が少ない状態や何もできていない状況にもストレスを感じるようになります。
会社全体の生産性へ影響する
最低限の仕事だけをする人が増えると、会社全体の生産性が下がっていきます。新商品や新サービスを生む機会が減っていけば、組織の利益が落ちる可能性があるでしょう。職場内のコミュニケーションも減るため、協力し合ってトラブルに対処するということも難しくなります。
会社の運営が難しくなれば納期遅れや品質の低下など、新たなトラブルが発生し、存続自体が難しくなる場合も出てきます。会社にとって静かな退職を選択する人が増えるのは、大きな損失につながるでしょう。
静かな退職の気づき方

静かな退職を選んでいる人には、いくつかの共通点があります。静かな退職に気づくきっかけとなるポイントは、以下の通りです。
• いつも定時で帰宅する
• 周囲とコミュニケーションを取らない
• 最低限の業務のみをこなす
• 残業は断る
• 仕事に不満を言う
• ミーティングや会議で発言をしない
就職をしてから静かな退職を選択する人が多いため、以前と比べて定時退社が増えた、仕事への意欲が見えなくなったなどの特徴が表れます。
静かな退職をしている人への対処法
職場に静かな退職を選んでいる人がいる場合、いくつかの対処を行う必要があるでしょう。上司へ提案をする、本人に声をかけてみるなど、できることから取り組んでみてください。
業務に対する関与や満足度を確認する
従業員の業務に対する関与や満足度などを把握し、改善策を実施するエンゲージメントサーベイを行いましょう。エンゲージメントサーベイとは、従業員が職場にどれだけ心理的に投資しているか、愛着を持っているかなどを可視化するツールです。
エンゲージメントが低い人は、静かな退職を選ぶ傾向が高まります。定期的に実施して従業員の意欲を把握し、改善を行いましょう。
人事評価制度の見直し
静かな退職を選ぶ人のきっかけに、現在の人事評価制度に対する不満が挙げられます。従業員が感じている不平不満を解消し、公正な評価体系が確立されれば従業員のモチベーションは向上するでしょう。
見直しの際は評価基準を明確にし、透明性を高める必要性があります。アンケートを活用してどのように評価されたいのか、評価基準に対する意見を聞くのもいいでしょう。
多様な働き方に対応する
静かな退職を防ぐには、多様な働き方に対応しましょう。例えば、フレックスタイムの導入・リモートワークの推進・時差出勤・育児休暇や介護休暇の長期化などです。仕事とプライベートの両立が可能になれば、ワークライフ・インテグレーションと呼ばれる考え方を浸透させられるでしょう。
ワークライフ・インテグレーションは仕事とプライベートを明確に分けるのではなく、柔軟に融合させながらバランスを取る考え方です。この考えが広がれば従業員の士気が高まり、企業の生産性も向上するでしょう。
部下の意見に耳を傾ける
上司としてすぐにできる対処法としては、部下に対して何を求めているのか声に耳をすますことです。部下と対話をする時間や安心して話せる信頼関係の構築が重要ですが、部下が「気にかけてくれている」と感じるだけでも効果があります。どうして静かな退職を選ぼうとしているのかが分かれば、対応もしやすくなります。
まとめ
静かな退職の概要やメリット・デメリットについてご紹介しました。静かな退職とは、必要最低限の業務にだけ取り組み、積極的に仕事に関わらない働き方をする人を指します。仕事に対して興味関心がない人が静かな退職を選んでいる場合もありますが、中には職場環境への不満や業務内容が合わないことで選んでいる人もいます。
静かな退職を防ぐためには、職場の評価制度の改善や多様な働き方への対応が必要です。静かな退職に関する理解を深め、まずは自身ができることから対策を始めてみてください。








