シニアの持つ"宝物"で、悩める若手営業パーソンを救いたい|株式会社サプリ
- 企業インタビュー
- 公開日:2025年8月27日
新人時代の挫折から「営業サプリ」立ち上げに至るまでの道のりを、株式会社サプリの創業者である酒井 雅弘さんにインタビュー。営業教育に対する熱い想いや、ITと人の力を融合した独自のプログラム、シニア人材の活用による若手支援など、事業の背景と未来への展望が詰まった内容をお届けします。
この記事の目次
【代表プロフィール】
酒井 雅弘
1978年東京大学教育学部教育心理学科卒業、株式会社日本リクルートセンター(現リクルートホールディングス)入社。 人事教育事業、通信事業・コンピューター事業など数多くの事業責任者を経て、1995年取締役に就任しリクルートの経営ボードを担う。 2006年リクルートを退任。
2017年、株式会社サプリ創業、代表取締役就任 CTI認定プロフェッショナル・コーアクティブ・コーチ(CPCC)を取得し、コーチング活動を開始。2022年ICF(国際コーチ連盟)認定コーチ資格ACCを取得。趣味コーラス、チェロ演奏 他
ダメダメだった私の原点、事業への想い
私が「営業サプリ」を立ち上げてから7年になります。今でこそ多くの企業様にご利用いただき、ありがたいことにご好評をいただいていますが、その原点は私の苦い新人時代にあります。
新卒で入社したリクルートで、私は教育事業部門の営業に配属になりました。学生時代、心理学を専攻していた私。希望通りの教育事業部門への配属でした。しかし、入社当時は全く売れず、正直「ダメダメ営業パーソン」でした。新規アポイントから商談、そして受注に至るまで、全てが思うようにいかず、何をやっても苦しかったのを覚えています。
特に辛かったのは、周囲の同僚や先輩たちとの差でした。周囲の営業パーソンの皆さんはとても楽しそうに仕事をしているように見えましたが、どうして自分だけこんなに苦しいんだろう?と不思議でなりませんでした。当時の新人研修は今ほど体系化されてはおらず、ほとんどがOJTという名の下に放置された状態、私も名実ともに手探り状態で仕事をしていました。
そんな中、特に印象に残っているのが、先輩Aさんです。同行した商談の様子をテープレコーダーでこっそり録音し、商談終了後に2人で聞き返しながら丁寧にフィードバックをくれました。当時の私は正直「Aさんの顔が怖いな...」と思いつつ、1年先輩のAさんの私の商談へのダメ出しの数々を緊張しながら聞いていました。
ただ、その熱心な指導は今でも忘れられません。彼は、なんとか後輩を成長させたいという熱い想いを、"ダメダメ営業パーソン"の私に、一生懸命伝えてくれていたのです。その時の「一人で頑張っているのではない、こんなにも自分の成長を願ってくれる人が傍にいる」という感覚は、私の心に深く残りました。
残念ながら、誰もがそうした素晴らしい先輩や上司に巡り会えるわけではありません。世の中の多くの新人が、どこで何を学べばいいのか分からないまま、一人で苦しんでいるのです。そういう意味で"ダメダメ営業パーソン"だった苦い思い出も、今では私にとって貴重な体験になりました。
その後、私は情報システム部門に異動する機会を得ました。もともとコンピューターが好きだったこともあり、システムを作る仕事は性に合っていたようで、水を得た魚のように成果を出すことができました。その頃に思ったのは、なぜ営業の時はあれほど一生懸命頑張ったのに成果が出ず、苦しかったのかということです。両方同じように頑張っているつもりなのに、なぜこんなに違うのか、と。
この経験から、「誰もが楽しく働けるように、営業スキルを体系的に学び、自信を持てるような教育プログラムがあれば、多くの人が救われるのではないか」という想いが私の中に芽生えました。そして、リクルート退職後、この想いを形にするために、「営業サプリ」の立ち上げを決意したのです。
IT活用と"寄り添う力"の融合
「営業サプリ」は、営業職に特化した教育プログラムを提供しています。我々のプログラムの特徴は、「IT活用」と「寄り添う力」の融合です。
一般的なeラーニングのように一方的に動画を視聴するだけでなく、受講者が実際にロールプレイングの動画を撮ってアップロードしたり、商談内容を文字で書き起こしたりと、テクノロジーの有効活用でよりリアルな営業シーンを再現することを重視した設計になっています。
また、テクノロジーの力で効率的な学習環境を提供する一方で、受講者一人ひとりに担当の「サプリコーチ」がつき、マンツーマンで個別指導を行います。このコーチングは、単に「ダメな点」を指摘するだけではありません。まずは「声がハキハキしていていいね」「わかりやすくていいね」といった良い点を伝え、その上で「ここをこうするともっと良くなるよ」とアドバイスします。
これは、かつて私を熱心に指導してくれたAさんのように、人の心を動かすのは、やはり人の熱意であるという信念に基づいています。Aさんは私を褒めてはくれませんでしたけどね(笑)デジタルツールで学習を進めながらも、アナログな人の温かさを通じて、受講者が孤独を感じることなく、前向きに成長できる環境を創り出す。このハイブリッドなアプローチこそが、私たちが最もこだわっているポイントです。
営業スキルの向上から、その先のキャリ形成に繋げる
これまで数多くの企業様の営業組織をサポートしてきましたが、特に印象的だったのは、若手営業パーソンの育成に課題を抱えていたある企業の事例です。その企業では、御用聞き営業が成功してきた時代が長く、ベテラン社員は過去の成功体験からなかなか新しい営業スタイルに移行できずにいました。
その一方で、現実的にはマーケットが成熟し、競合が増えたことで昔ながらのやり方では実は全く通用しなくなっていたのです。既存顧客の取引維持を担当し、新規の開拓は新人に任せている先輩や上司たちが、過去の成功体験「根性論」や「頑張れば売れる」という考え方を若手に伝えても、市場の競争環境も大きく変化している現状の市場と向き合って苦しんでいる若手社員には全く響いていませんでした。
そこで、営業サプリの導入を決断いただきました。特に、入社2年目の若手社員にフォーカスしてプログラムを提供したところ、彼らは劇的に変化していきました。それまで、何ができて何ができないか、どこに課題があるのかさえ分からなかった彼らが、プログラムを通じて自分の弱点を客観的に認識し、自ら改善策を考えて主体的に行動に移すようになったのです。
その結果、商談における顧客理解の精度、顧客との課題の共有、提案書の内容などの営業プロセスの質が格段に向上し、それに伴って営業成績もアップ。何より営業という仕事の醍醐味に手応えを感じ始めてくれた、若手社員の離職率の低下にもつながりました。
私たちは、単に営業スキルを教えるだけでなく、彼らが働く上で抱えている本質的な課題を解決し、"仕事そのものの意義や意味の実感"をサポートすることで、一人のビジネスマンとしてのキャリアの形成そのものをサポートできていると感じています。
私自身が体験したことと同じような苦しい想いをしている若手の営業パーソンが、現状でも国内に100万人位はいるのではないでしょうか。そんな思いをしている営業パーソンを一人でも救いたい。それが、営業サプリの原点ですよね。

シニア人材の活用と"日本の宝"
当社の事業運営において、シニア人材の活用は欠かせない要素であり、極めて重要な意味を持っています。当社の提供する"営業サプリ"の肝となる"サプリコーチ"は約50名。その半数以上はシニアの皆さんです。彼らのほとんどは、長年にわたり第一線で営業を経験し、百戦錬磨の知見とノウハウを蓄積してきた方々です。私は、彼らこそが「日本の宝」であると確信しています。
受講者が抱える「こんな時、どうすればいいんだろう?」という疑問に対し、シニアコーチは瞬時に「これはあの時のパターンだな」と判断し、自身の豊富な引き出しの中から的確なアドバイスを提供できます。彼らの経験は、まさに宝の山です。
しかし、多くの企業では、シニア層が役職定年を迎えるなどして、こうした貴重なノウハウが若い世代に継承されず、埋もれてしまっているのが現状です。多くのシニアは、自分の培ってきた経験を若い世代に伝えたいと切望しているにもかかわらず、その機会が与えられていません。彼らの経験を社会全体で活かす仕組みを作ることは、日本のビジネス社会にとって大きな意義があると考えています。
豊富な引き出しと"想いと汗"が心を動かす
大手のトップセールスだったあるコーチは、最初は最新のITツールに不慣れな部分もありました。しかし、持ち前の探求心と豊富な経験を活かし、新しいツールの使い方もすぐに習得してくれました。
彼は、受講者の悩みに対し、抽象的、表面的なアドバイスだけでなく、受講者の次なる打ち手のヒントとして、「自分だったらこうするよ」と、自身の経験に基づいた具体的な実践策の引き出しや課題解決に向けた思考の整理の方法を語ってくれます。経験の浅い営業パーソンに、より具体的な課題解決の実例を示すことで、視界を広げ、仕事の深みや面白さの実感に繋げています。
時にはサプリコーチが自ら、顧客攻略に向けた事前準備にまで汗をかき「このお客さん、こんな情報を公開してるよ」と、受講者が気づかなかったような情報源まで探して提示してくれます。 こうした熱心な姿勢は、単なる営業ノウハウの伝授にとどまらず、仕事への向き合い方や人間性といった、より本質的な部分で若者に良い影響を与えています。
学び続ける意欲と変化への勇気。そして寄り添う想い
私たちがサプリコーチに求める人財像は、単に豊富な営業経験やスキルがあることだけではありません。最も重要なのは、「学び続ける意欲」と過去の成功体験に固執せず「新しい環境に飛び込み変化に対応していく勇気」です。もちろん、当社"営業サプリ"の最大の肝「若い世代の成長を心から喜び、受講生と寄り添い、伴走していきたいという、温かく、熱い想い」を持つ方と一緒に働きたいと考えています。
自分の経験が若い人に役立つことだと気づいていないシニアも多くいます。あなたの経験は間違いなく宝物です。その宝を言語化し、体系的に整理することで、多くの若者の助けになります。そして、その活動を通じて、シニア自身のセカンドライフの道も拓けていくと信じています。
営業パーソンのスキル向上から組織の風土改革へ
当社の今後の事業展開として、私たちは「営業パーソン教育」という枠を超え、営業組織全体の変革を支援することを目指していきます。新人や若手だけでなく、マネージャー層の教育にも力を入れています。多くのマネージャーは、マネジメントのいろはを学ぶ機会がないまま、部下を育成する立場になります。
私たちは、マネジメント層向けに、営業戦略の立て方など業績を上げる営業マネジメントの基本を学んでいただく「営業マネジメントコース」や、部下の育成スキル、特に考えさせ、自律的に行動させるスキルを教える「部下育成スキルアップコース」を提供しています。さらに、組織全体の文化・風土を変えていくためのコンサルティングも始めています。
例えば、商談の前の5分間のロールプレイングの実施を日常化するような仕組みづくりをお客様と一緒になって進めています。「5分間の商談前ロールプレイング」を導入するためには、最適なロールプレイングの相手役を皆ができるようになるツールや訓練が必要です。ただ、この「5分間の商談前ロールプレイング」を日常化することは単なる商談力のスキル向上だけが目的ではありません。
お互いに商談に関わり合うことで日常の社内のコミュニケーションが変わり、ナレッジコミュニケーションが活性化し始めます。そしてチームとしてお互いの仕事への関心が高まり、目標に一丸で向かう営業チーム風土の改善につながるのです。これは単なる個々の営業パーソンのスキル向上のプログラム提供にとどまらず、組織に深く入り込み、企業文化そのものを変革していく取り組みです。
新人からマネージャー、そして組織全体へと、より高いレベルで信頼していただき、お客様の事業成長に貢献できるパートナーとなることを目指しています。この営業組織の風土改革の営業活動は、メインの"営業サプリ"の企業への営業活動においても、大半をシニアのメンバーに担っていただいています。
営業部隊に一切課題感を感じていない会社は極小だと思います。多くの企業が何らかの問題を抱えています。当社で営業を担当しているシニアの多くが、営業組織のリーダーを経験しており、営業パーソンはもとより、管理職そして組織全体が抱える"壁"を体験してきたメンバー達です。
自ずと企業の経営者や、営業組織長の抱える悩みを受け止め、課題解決に向けて伴走することを進めてくれています。ここでも、彼らの持つ営業リーダーとして経てきた経験が「宝物」として活きています。
あなたの"宝物"に気づいて欲しい。次の世代に活かして欲しい

私自身も還暦を過ぎ、人生の後半に入っています。リクルート退職後、様々な道を探しましたが、最終的に「営業サプリ」という事業にたどり着きました。それは、これまでのキャリアを通じて培ってきた「営業支援」というテーマを、改めて追求したいという想いがあったからです。現代の企業において、50代の営業パーソンは非常に気の毒な状況に置かれることが少なくありません。
若い人には期待がかかり、重要な顧客は若手に任され、自分の居場所を見失ってしまうケースが多いのです。しかし、彼らが持っているノウハウは、間違いなく「宝物」です。シニアの皆さんに伝えたいのは、まずその宝を信じて、自信を持ってほしいということです。そして、その宝を次の時代に活かすために、学び続ける姿勢を忘れないでください。
私自身も、50歳を過ぎてからチェロを始めました。ピアノは一人で弾く楽器だからと挫折しましたが、チェロは合奏ができるんです。今では年に数回、弦楽合奏の発表会に参加しています。若い頃から歌はやっていましたが、新しい楽器に挑戦することで、人との新たな繋がりも生まれました。人生100年時代、会社以外のつながりや、新しい趣味を持つことは非常に大切です。そうした新しい人との出会いが、きっとあなたの人生を豊かにしてくれます。
また、チャットGPTのような最新のテクノロジーは、あなたの経験を言語化し、体系的に整理する手助けをしてくれます。「俺がやってきたことって、どういうことかな?」と問いかければ、AIがあなたのキャリアを整理してくれます。新しいものを取り入れ、常に変化を恐れないでください。
かつての私がそうだったように、多くの若い営業パーソンが、今もどこかで孤軍奮闘しています。あなたの経験と熱意が、彼らにとっての大きな道標になります。あなたの宝を次世代に引き継ぎ、あなたのセカンドキャリアを自ら切り開いていってほしいと心から願っています。








