年金収入が多いと安心は間違い?後悔しないために知っておきたいこと
- ライフプラン・人生設計
- 公開日:2025年5月 9日

不安の多い老後の暮らしも、年金収入が多ければ安心だろうと考えている人は多いのではないでしょうか。今回は年金収入が多くても安心できない理由や、老後の想定外の出費、老後を迎える前に考えておきたいことを解説します。老後の生活資金に不安がある、年金だけでは心配という方はぜひご一読ください。
この記事の目次
年金収入が多くても安心できない理由とは
年金収入が多くても、老後の生活が安心ではない理由をご紹介します。どのような問題があるのか、事前に知っておきましょう。
年金収入に対しても税金が発生する
年金収入は給与などと同じように、所得税や住民税が発生する可能性があります。年金収入だけでも所得税が発生するのは、以下の条件に該当している場合です。
• 65歳未満の人:受給額や収入が108万円超
• 65歳以上の人:受給額や収入が158万円超
収入が公的年金のみで65歳未満は108万円以下、65歳以上の人は受給額が158万円以下の場合は所得税の支払いは発生しません。年金受給額や収入がそれぞれのボーダーラインを超えると、その分に所得税が発生します。基本は源泉徴収されるため、天引きされた額が年金として振り込まれる仕組みです。
ただし、年金受給者でも確定申告が必要な場合もあります。対象となるのは、年金受給額の合計が400万円を超える人や、公的年金等に係る雑所得以外の所得金額が20万円以上の人です。例えば、年金収入が350万円でも、給与や投資などで300万円の収入を得ている場合は確定申告の対象となります。
給付金制度を受けられなくなる場合も
年金収入が多くなると、年金生活者支援給付金制度を受けられなくなる可能性があります。年金生活者支援給付金制度は、老齢・障害・遺族年金の受給者で、条件に該当している人が受けられる制度です。老齢年金生活者支援給付金の受給は、以下の条件を満たしている必要があります。
• 65歳以上の老齢基礎年金の受給者である
• 同一世帯の全員が市町村住民税非課税である
• 前年の公的年金等の収入金額とその他の所得との合計額が昭和31年4月2日以後に生まれの方は889,300円以下、昭和31年4月1日以前に生まれの方は887,700円以下である
住民税が課税されている場合や、収入金額が多い場合は、給付金制度の利用はできません。
介護保険の自己負担額が変わる
年金収入やその他の収入が多い場合、介護保険の自己負担額が変わります。介護保険の自己負担割合と目安の金額は以下の通りです。
自己負担割合 | 目安金額(単身者) | 目安金額(夫婦世帯) |
---|---|---|
3割 | 340万円以上 | 463万円以上 |
2割 | 280万円以上 | 346万円以上 |
1割 | 280万円未満 | 280万円未満 |
目安金額は、年金収入とその他の合計所得金額を含めた金額です。月の収入で見ると、単身者の場合は月28.3万円以上、夫婦世帯なら38.5万円以上の場合は3割負担になるでしょう。一方で単身者も夫婦世帯も、月23.3万円未満の場合は1割負担となります。
退職金の受け取り方で保険料が変わる
また、退職金の受け取り方によっては、介護保険の金額が変わる可能性があります。退職金は、以下の3つの受け取り方から希望に合った方法を選べます。
• 一時金として一括で受け取る
• 年金方式として運用収益を上乗せして受け取る
• 2つを併用する
一時金方式を選択した場合は、所得税や住民税を差し引いてから受け取るため、保険料への影響はありません。しかし、年金方式を選択した場合は退職金は公的年金等の雑所得に該当するため、介護保険料算定の際に所得として加算されます。所得の額が増えるため、必然的に介護保険料も上昇する可能性があります。
年金が少なくても収入が多ければ負担は増える
単純に年金だけで生活をしている場合は、所得税の免除や介護保険料の1割負担などに該当します。しかし、年金以外にもアルバイトをしている、投資で得た利益を生活費に当てているなど、他の収入がある場合は税金の免除などには該当しません。
例えば、65歳の単身者が年金で毎月20万円、給与で月15万円の収入を得ていた場合、月の収入は35万円です。介護保険の自己負担割合は1割ではなく、3割になるでしょう。所得税は158万円を超えた分に発生するため、(35万円×12ヶ月)-158万円=262万円に対して、税金を支払う必要があります。
年金収入は少なくても、年金以外の収入があれば所得税や住民税は発生しますし、金額によっては介護保険の自己負担割合も増加します。
老後に発生する出費の種類
年金収入が多くても安心できない理由のひとつとして、老後に発生する出費もあげられます。定年退職後にはどのような出費があるのか、ぜひ一度確認しておきましょう。
生活費
老後の生活に最低限必要とされている生活費は、月額で平均23.2万円です。趣味を楽しむなど、ゆとりのある生活を送るならば、必要となる金額は月額で平均37.9万円になります。一方年金収入の平均は、厚生年金が月額14.6万円、国民年金が5.7万円です。もし、厚生年金と国民年金の両方を受給していたら、平均で月20.3万円の収入になります。
最低限必要な生活費に対して年金収入は1.9万円、ゆとりがある生活のためには17.6万円足りません。仮に平均より多く年金をもらっていたとしても、余裕を持った生活を送るのは難しいでしょう。
参照元:公益財団法人 生命保険文化センター「老後の生活費はいくらくらい必要と考える?」、厚生労働省「厚生年金保険・国民年金事業の概況」(令和5年度)
想定外の出費
生活費以外にも老後の生活では想定外の出費が発生する可能性があります。急な病気による入院、住宅のリフォーム、子供の結婚や孫への出費などです。例えば、住宅のリフォームでは浴室機器の入れ替えで50万円、キッチンの修繕で100万円などの費用が見込まれます。
これらの支出に対して、生活費用とは別に貯蓄や投資でまとまったお金を用意しておく必要があるでしょう。老後の生活は、年金収入が多くてもそれを上回る出費が発生する可能性があるため、油断はできません。
年金収入を増やして後悔しないためのポイント
少しでも老後生活を安心して送りたい、年金収入を増やしたいが後悔したくない人のために、気をつけておきたいポイントを3つご紹介します。年金受給前に、ぜひご確認ください。
繰り下げ受給のメリット・デメリットを理解する
年金収入を増やす方法として、年金の繰り下げ受給があります。繰り下げ受給を選択すると、1年遅らせるごとに8.4%年金額が増額する仕組みです。75歳まで繰り下げると、年金は84.0%増加します。受け取れる年金額を増やせる、より高齢になった時のためにお金を残せるのは、繰り下げ受給のメリットです。
しかし、年金収入が増えれば税額や保険料の増加のほか、加給年金が受け取れなくなる、遺族年金は増額されないなどのデメリットも存在します。老後のために年金収入を増やしたいと安易に繰り下げ受給を選択するのではなく、どのような問題が発生するのかも理解しておきましょう。
公的年金の減額はできないと知っておく
税金や保険料の負担を減らしたいからといって、年金の受給額は減額できません。一度受給を始めたら、年金額の返金や夫婦の世帯分離などもできないことは知っておきましょう。できるのは、年金の受給時期の変更だけです。
ただし、年金を受給しながら働いている場合は、老齢在職年金が支給停止や減額になる場合もあります。受け取り始めてから慌てないためには、受給前に老後の資金計画を見直しておく必要があります。
医療や介護の自己負担額が増える可能性がある
年金収入やその他の収入が増えると、医療や介護にかかる自己負担額も増える可能性があります。介護保険の自己負担割合が3割とされた場合、1割負担の人と比較すると、支払う金額は3倍です。例えば、1回13,000円の訪問入浴介護を月に4回利用した場合の月額費用を比較してみましょう。
▼自己負担額が1割の場合
1,300円×4回=5,200円
▼自己負担額が3割の場合
3,900円×4回=15,600円
1万400円の差額が発生します。
医療費も高額療養費制度を利用できれば、70歳は2割負担、75歳は1割負担ですが、現役世代並みに収入があると判断されれば3割負担となります。年金収入が多いと、医療や介護に必要な費用が増える可能性があるでしょう。
年金以外で収入を増やす方法も考える
年金収入などが増えると、税金や保険料などの支払い負担が増加します。しかし、年金だけでは生活が難しいのも事実です。必要最低限の生活費用を確保するためには、年金以外の収入源の用意も検討しておきましょう。
貯蓄
年金以外の収入源として、貯蓄を検討している人は多いでしょう。貯蓄で老後の費用を貯めるには、毎月の家計の見直しと無駄な支出の削減が重要です。特に、スマホ代や生命保険料などの固定費は見直しをすると節約効果が長く続きます。
もし、40歳から65歳までに3,000万円を貯蓄したい場合は、毎月10万円の貯蓄が必要です。目標額を達成するために無駄な支出は削りつつ、無理のない生活を送れるか一度計算してみましょう。難しい場合は貯蓄と並行して、別の方法で老後の資金確保をご検討ください。
iDeCo
iDeCoは、個人で用意する私的な年金制度です。毎月5,000円から積み立てて、自身で選んだ商品を運用します。運用で得た利益などは、非課税での受け取りが可能です。原則、60歳までは引き出しができないため、老後資金の形成に向いています。もし、途中で解約したいとなっても、60歳までは積み立てたお金は引き出せない点は利用前に知っておきましょう。
個人年金保険
個人年金保険は、保険会社が用意している私的な年金制度です。契約時に決めた年齢まで保険料を払い込むと、給付が受け取れる貯蓄型の保険になります。個人年金保険は途中解約に対応しており、解約返戻金も受け取り可能です。iDeCoとは違う形で私的年金を用意したい人は検討しましょう。
投資信託
投資信託は、投資家から集めたお金を運用会社が株式や債券などに投資し、その運用成果を投資家に分配する金融商品です。少額から始められる点や分散投資ができるため、比較的リスクが少ない点がメリットとなります。初めて投資をする、リスクを抑えて老後の資金を形成したい人におすすめです。ただし、投資商品であることに変わりはないため、場合によっては元本割れを起こす可能性があります。
給与収入
投資や貯蓄のほかに、年金受給を開始しても働いて給与を得る方法もあります。正社員としての再就職や、アルバイトで安定した収入を得られるでしょう。また、60歳以降も会社で働いた場合は、70歳まで厚生年金に加入できます。年金収入を増やしつつ、別の収入源も確保できるため、安心して老後生活を送れるでしょう。
まとめ
年金収入が多くても、安心できない理由について解説しました。年金の受け取り額が多いと、税金や保険料の負担が発生し、生活に影響を与える可能性があります。一方で年金以外の収入が多くても、同様に税金などの問題が発生します。
年金だけでの生活が難しくなっている状況で、どのようにして収入を確保するのか、様々な支払いに対してどのように対応するのか事前の計画が重要です。ぜひ年金の受給開始前に、老後の資金計画を入念に作成してみてください。