入社後の継続的な活躍を期待するために | 中高年採用のススメvol.7
- 中高年採用のススメ
- 公開日:2018年5月15日
中高年採用におけるポイントを抑え、求める経験・スキルを備えた優秀な中高年の採用が実現したとしても、入社後すぐに辞められてしまっては意味がありません。せっかく採用できた中高年に継続的に活躍してもらうためには、何が求められるのか。谷所健一郎氏が、中高年採用を成功させるポイントについてお届けする連載最終回。
この記事の目次
継続的な活躍を期待するための評価制度の構築
これまでの回でもお伝えしたように、経験を持った中高年を採用する場合、その能力を活かせる環境を整備すると同時に、活躍に見合った、中高年が納得できる評価がなされるような制度を構築することが不可欠となります。
具体的には以下のような施策が効果的です。
・目標や納期を明確にする
採用する中高年に何を行ってもらいたいか。「会社をもっとよくしてほしい」といった漠然な要望ではなく、自社業務の棚卸しを行ったうえで、課題を確認し、任せるべき明確なミッションとして設定。さらに、その締め切りも明確にすることで、中高年が、入社後何をすべきか、計画性を持って進めてもらえるようにします。
・実績重視型の評価制度を構築する
目標・納期を明確に設定したうえで、成功報酬型制度(インセンティブ)の導入等、結果を出せる人材に報いるというスキームの構築を行います。営業や販売などの成果が明確に表せる職種の場合に、もっとも有効です。
・キャリアシートを実践する
半期や年度ごとに、キャリアシートを記入。自己評価と上司の評価をつき合わせることで成果と行動を整理でき、評価への理解度・納得度も高まります。これは、管理職や事務などの成果を数値で表しにくい職種においては、特に重要です。
・結果だけでなくプロセスも評価する
成果や目標だけを追い求めるだけではなく、目標達成のためにどういった行動をしたかを把握したうえで評価に加味します。たとえ求める結果に結びつかなくとも、上司は、それまでのプロセスを把握した上で、「このアプローチは良かったが、ここがだめだった。だから今後はこうしていこう」などと、フィードバックを行います。
・生活環境に合わせた雇用制度を設ける
例えば、介護の必要がある社員がいる場合は、時短勤務の雇用契約とするなど、中高年社員の希望に合うような雇用体制を用意するなど、それぞれのライフステージにあわせた、活躍の舞台を用意することができれば、離職率の低下にもつなげることができます。
時短勤務の導入が難しいようであれば、正社員雇用を前提としたうえで、契約社員やパートタイムも選択肢として提示できるようにすることも有効です。
現場に中高年社員の必要性を浸透させる
採用後、中高年社員がしっかりとパフォーマンスが発揮できていれば、自然と現場からの理解は得られますが、それにはどうしてもある程度の時間が必要です。それまでの期間を埋めるために、人事からフォローを行う必要があります。その際のポイントは、既存社員に不公平感を生まないように配慮することです。
・余計な疑念を生まないよう、事前の説明を行う
「入社してきた中高年社員の給与は若年層よりも高いのでは」という疑念を既存社員が持たないよう、給与水準の大まかな説明を行うことも、不平等感を予防するためには効果的です。
・人件費については、一定期間人事扱いを検討する
現場の人件費がかさばることが、中高年採用における大きな障害となっている場合は、採用後一定期間は、人件費を人事部持ちにしてしまうのも一つの手です。さらに、本部主導での研修の実施など、現場からの反発がないような根回しをした上で、まず、中高年採用の実績を作ります。
・これまでの経験を共有する場を設ける
既存社員が転職者の情報を知りたいと考える転職後3ヶ月以内に、本部主導で情報共有の場を設けます。新人のもつスキルセットや経験を現場に伝えることで、会社に貢献できる人材であることを認めさせます。
・人事部(本部)宛てに一定期間報告書を提出させる
中高年転職者が、現在おこなっている業務や、今後取り組んでいきたいこと、職場での悩みなどを、上司を介さず、人事直結で報告できる窓口を設置。実情を汲み取ったうえでの対策が可能になります。
・360度評価を実施する
上司だけでなく、同僚、部下などがお互いを評価する360度評価の実施も効果的な施策です。組織で相互監視することで、職場の緊張感が生まれ、生産性の向上も図ることができます。
共に経営を推進していく理念を共有するために
現場からの採用ニーズを吸い上げた場合は、「若い人がほしい」といった要望が必ず上がってきます。中高年採用を成功させるには、そのメリットや「助っ人」にどんな役割を任せる予定か、などの具体的な情報を、経営者から現場に周知し、計画を主導していくことが重要です。
年齢に関わらず目指すベクトルを同一にするために、クレド(経営理念に基づき、基本理念、行動理念、企業理念を明文化したもの)の制定をおこなうことも効果的です。注意しなければならないのは、クレドの作成に当たっては、経営者からのトップダウンだけではなく、社員からの意見も集めること。「突然制定されたもの」はどうしても他人事になりがちなので、社員の主体的な意見も取り込み、会社の経営方針に対し、自分達はどう行動するのか、などを自らの発信で創り上げることによって、仕事への意欲や帰属意識の向上も図ることが出来ます。
また、同時に、会社・経営者にとしてのミッション・ビジョンを明文化しておくことも必要です。これは、中高年採用実施の有無に関わらず、会社としての大きなメリットとなるでしょう。
中高年採用は、早く始めれば一日の長を生む
7回に渡りお届けしてきたこの連載も、今回で最終回となります。
人事担当の皆様に対して、中高年の採用は難しいという先入観を無くし、中高年採用の実践と活用について考えるヒントになれば幸いです。
若年層の採用が中心である、日本の雇用情勢。基本的にその形は、これからも変わらないと思います。しかし、人口が減っているこの日本においては、人手不足という問題もますます深刻化していくことが予想されます。
はじまりは「若年層が採用できない、だから中高年を採用しよう」という考えでもよいと思います。しかし、徐々に中高年採用のノウハウを蓄積できてきたら、「将来を担う若年層にはこの業務を、経験値の高い中高年層にはこの業務を」と切り分けを行い、人材の活用を行うことが、一つの理想の形であると考えています。
中高年採用は新たな採用の方式。そのため、ハードルはありつつも、それは乗り越えられるものであり、取り組むことで長期的なメリットが必ず生まれます。
皆さまの企業が中高年人材を有効活用し、今後益々成長していかれることを心から祈願いたします。
これまでお読みいただき、ありがとうございました。