中高年社員が入社した際の既存社員への配慮 | 中高年採用のススメvol.6
- 中高年採用のススメ
- 公開日:2018年5月 1日
中高年採用では、しばしば『年上の新人にどう接したらいいのかわからない』などの不安の声が現場から上がってきます。せっかく優秀な人材を採用しても、その能力を活かせる環境が整っていない。または、既存社員のパフォーマンスに悪影響があれば意味がありません。そうした状況を回避するためには、どのような対策が有効なのでしょうか。谷所健一郎氏から、中高年採用を成功させるポイントについてお届けする連載6回目。
この記事の目次
年上の部下に対するマネジメント方法
年上の部下を持った上司が、「どう接したらいいかわからない」といった状況に陥らないように、まずは「業務の見える化」をしておく必要があります。
第三回でもお話しましたが、そのためには、自社業務の棚卸しを行うことが第一です。チームの業務が見えるようにタスクとして落としこみ、さらに、個々人の作業割り振りをリスト化する。そうすることで、社員それぞれに自分の役割を認識させられるうえ、作業進捗も明確化することができます。
このように全体が明確化されていれば、相手の年齢などの要素に関わらず、「どうやってその業務を進めるのか」「わからないことがあれば、誰に確認すればよいのか」などの具体的な指示・指導を行うことができます。自分でも整理できていない漠然とした指示をする場合、迷いがあるため相手に気を使ってしまいがちですが、整理されていれば「やるべきこと」が明確なため、不要な気遣いを交えずに指導ができます。
この作業は、中高年採用を行うか否かに関わらずメリットが大きいため、定期的に実施することをお勧めします。整理を初めて行うときには労力はかかりますが、一度形作ってしまえば、二回目以降はアップデートしていけばよいのでさほどの労力もいりません。
任せるべきタスクが明確化できたら、評価軸は迷わない
評価を行う軸ですが、特別に新しい基準を設ける必要はありません。数字で具体的な評価ができる営業や販売職などは、既存の社員と同様の評価基準を用いるのが望ましいでしょう。
同様に、事務職のような数値化が難しいバックオフィス業務においても、中高年だから「特別秀でたスキルを持っている」という前提を置く必要はなく、若年層と同様の実務能力であれば、同じ評価軸で判断するほうが公平性も生まれるので望ましいでしょう。
こうして、年齢などの属性を問わないマネジメント実績が一度生まれれば、「年上の部下だから」といった年齢差の概念は払拭できます。
コミュニケーションの推奨モデルは、トップダウンで現場へ下ろす
業務のマネジメントに関しては、タスクを明確化することで対応ができますが、コミュニケーションについては、気配りのある対応をすることが望ましいでしょう。
例えば、いつも部下を呼び捨てにしている上司が、「中高年の部下を呼び捨てにしてもいいものか」と悩む状況に陥らないように、全社的に「さん」付けで呼び合うよう推奨するなど。中高年の社員を現場に配置する前に、戸惑いが生まれないよう、推奨するコミュニケーションの形を整える必要があります。
そして、重要なことは、その形を「経営層もしくは人事部」から下達することです。
各現場の判断に任せるよりも、一旦トップダウンで推奨する形を現場に下ろすことで、その重要性が現場に伝わります。重要性を認識したうえでコミュニケーションが始まれば、各現場でより適した形が生まれていくでしょう。
つまり、中高年採用を行うにあたって、中高年者を特別待遇で扱う必要はありません。既存の社員、新人、若い社員、年配の社員。それぞれが自身のパフォーマンスを発揮できるよう、全社員が「風通しが良いと感じられる組織風土」を確立することこそが本質なのです。
テーマ発表や窓口設置、同期会など...具体的な施策の紹介
とはいえ、これまでと異なる属性の人材が入ってくることから、溶け込みやすいような施策を実施したい。そのように考える場合は、以下のような取組みがオススメです。
定期的なテーマ発表
例えば、月1回などのスケジュールを決めた上で、何らかのテーマを持って中高年の新人が既存社員に対して発表できる場を整備します。
これを行う目的は、新人が持つスキルセットや経験を皆に伝えることで、事業に貢献できる要素を持つ人材であることを既存社員に認めさせることです。そのため、漠然とした自己紹介ではなく、これまでの会社での経験や実績など、具体的で話しやすいテーマを設定しておくことで、既存社員への理解を深めることができるようになるでしょう。
人事直結の窓口設置
中高年の配属による悩みなどを、既存社員や新人の中高年が定期的に人事部直結で相談できる窓口を設置します。実情を汲み取った上での対策が出来るだけでなく、現場で起きうる問題を人事部が把握できるため、次回の採用に役立てることができます。
そうした相談や悩みの内容が少なくなってくることで、その定着を実感することもできるようになります。
卒業年が同じ社員の「同期会」実施
会社の入社年次ではなく、学校の創業年が同じ人たちを集めた『同期会』を人事主導で開催します。所属する部門も立場もばらばらになるので、共通の話題は世代の話になりますし、仕事の話題が出ればその共有の場にもなります。
会社の規模によって、2~3年をまとめて同期とするなどの対応も可能です。
「ブラザー・シスター制度」は中高年にも効果的
一般的にブラザー・シスター制度は、新卒新入社員を対象として実施されますが、あえて中高年の新入社員でも導入することによって、既存社員を含めた年齢に伴う「遠慮」という壁を取り除く効果を生むことができます。
即戦力として採用される中高年は、仕事の実務能力に関してはそれほど心配はいりませんが、社内の仕組みや人間関係などはわかりません。また、マニュアル化されていない場合にはコピー機の使い方などの社内設備においても、わからないことが出てくるでしょう。そうした社内の仕組みやルールなどについて確認しやすくなることで、既存社員との円滑なコミュニケーションができる組織作りに繋げることができます。新卒であれば1年程度継続することが多いですが、中高年であれば、職場に慣れるまでの3ヶ月程度の期間限定で問題ないでしょう。
また、ブラザー・シスターの担当となった社員に対しても、期間中の手当や、教育を行った中高年新入社員が成果を上げた際に、人事考課等で評価する仕組み作りも重要です。この制度は、360度評価と兼ね合わせることでより効果が期待できます。
新卒社員に対するブラザー・シスター制度の弊害として挙げられるのは、「新入社員がブラザーシスターに依存してしまうあまり自主的に考えることを放棄してしまう」ことですが、中高年社員であれば社会人としての基礎力を持っているため、その不安はありません。
一方、担当のブラザー・シスターとの相性が合わないなどのトラブルを避けるために、複数人が1ヶ月ずつ持ち回りで担当してもらうといった対策を行っておいてもいいかもしれません。ブラザーシスターが行うべき役割は「社内風土を早期に理解」させること、そして「主担当業務を主体的に進める筋道」を作ることの2点です。みっちり並走して行うというよりも、OJTにプラスαとして行うようなイメージでいいでしょう。
まとめ
次回はいよいよ最終回。中高年社員が、継続的に活躍するための施策についてお伝えいたします。