火事や災害、盗難などで損したら税金が戻るって本当?知っておきたい雑損控除とは
- ちょっと得する知識
- 公開日:2025年10月 1日
地震や火事、盗難などの被害に遭った際に確定申告で「雑損控除」の申告をすると、所得税や住民税が軽減される場合があります。今回は、いざという時の税負担を軽くできる雑損控除について、概要から適用できる場面、計算方法などを解説します。雑損控除以外に使える災害時の減免方法もご紹介していますので、ぜひ最後までお読みください。
雑損控除とは所得控除の一つ
雑損控除とは所得控除の一つで、災害・横領・盗難などの被害に遭った際に利用できます。災害などの予想できないトラブルで被害を受けた人の税額負担が、軽くなるように作られた制度です。雑損控除を受けるには年末調整ではなく、確定申告を行う必要があります。
控除を利用できるのは、以下の条件に該当した人です。
• 資産の所有者が納税者本人である
• 納税者と生計を一にする配偶者やその親族で、その年の総所得金額等が48万円以下である
• 棚卸資産もしくは事業用固定資産等または「生活に通常必要でない資産」のいずれにも該当しない資産であること
つまり、個人の生活で必要となる資産が損害を受けている場合は、雑損控除が受けられます。一方で事業用資産が損害を受けた場合は、雑損控除の対象にはなりません。
事業用資産に損害が出た際は、必要経費や特別損失として計上します。資産の処分にかかったお金も経費として計上できるため、災害損失などの特別損失として扱えます。
雑損控除が使える資産・使えない資産
雑損控除は、生活に必要であると判断された場合に適用されます。具体的に雑損控除の適用対象となる資産と、対象外の資産について解説します。
使える資産
対象となる資産は以下のような、生活に通常必要となる物です。
• 自宅家屋
• 自宅の門や塀
• 家具
• 衣類
• 家電
• 書籍
• 生活に使う車
生活に必要かどうかの判断基準はあいまいなため、不安がある場合は事前に税務署へ確認しておきましょう。
使えない資産
雑損控除が使えない資産は、以下のような物です。
• 別荘など娯楽目的の不動産
• ゴルフ会員権
• 貴金属・書画・骨董など1個または1組の価額が30万円超のもの
• 事業用の車や備品
所有していなくても生活ができると判断された場合は、雑損控除の対象にはなりません。また、事業用用品はすべて雑損控除の対象外です。
雑損控除が使える場面・使えない場面
雑損控除は資産に損害を受けていても、使える場面と使えない場面があります。一体どのような時なら使えるのか、具体例をご紹介いたします。
使える場面
雑損控除が利用できるのは、以下のような場面の時です。
• 震災、風水害、冷害、雪害、落雷など自然現象の異変による災害
• 火災、火薬類の爆発など人為による異常な災害
• 害虫などの生物による異常な災害
• 盗難
• 横領
自然災害の例では、豪雪地帯での雪下ろしに必要な道具の購入費。異常災害の例では、害獣によって家が被害を受けた時に控除を受けられます。盗難や横領など防ぎようがないと判断された犯罪被害も、雑損控除の対象です。中古品や贈与された品も、資産の証明ができれば雑損控除の対象となる可能性があるでしょう。
使えない場面
雑損控除が使えないのは、以下のような場面の時です。
• 振り込め詐欺などの詐欺
• 脅迫
• 車の損害
• 経年劣化による故障
• 紛失
詐欺や脅迫などの場合は、自身で回避できる可能性があるという考えから、雑損控除の対象には含まれていません。車の損害は、状況次第で雑損控除を受けられないケースもあります。交通の便が悪いわけではない地域・通勤に利用していない・子どもの通学に使った事実が認められないといった理由で、雑損控除の適用を受けられなかった事例もあります。
また、経年劣化や紛失も雑損控除の対象にはなりません。あくまでも災害・火事・盗難など、防ぎようがない事柄で損失を受けた場合にのみ利用できます。
雑損控除の計算方法
雑損控除には2種類の計算方法があり、どちらか多い方の金額が適用されます。
1. (損害金額+災害等関連支出の金額-保険金等の額)-(総所得金額等)×10%
2. 災害関連支出の金額-5万円
損害金額とは
災害によって被害を受けた資産を、合理的な計算方法で算出できる金額のことです。住宅や家財の取得価額が明らかな場合は、(取得価額-減価償却費)×被害割合で算出できます。
住宅の取得価額が明らかでない場合は、((1㎡あたりの工事費用×総床面積)-減価償却費)×被害割合、家財の取得価額が明らかでない場合は家族構成別家庭用財産評価額×被害割合で求められます。車両は(車両の取得価額-減価償却費)×被害割合で計算します。
〈例〉雑損控除の計算
• 自然災害による損害額:100万円
• 受け取った保険金額:40万円
• 総所得金額等:300万円
• 差引損失額のうち災害に関連した支出:30万円
計算式1:(100万円+30万円-40万円)-(300万円)×10%=60万円
計算式2:30万円-5万円=-25万円
上記の場合では計算式1の方が多くなるため、60万円が雑損控除できます。
控除額が所得額を超える場合は繰越できる
計算した結果、控除額が所得額を超えた場合は繰越が可能です。繰越は翌年以後3年間まで毎年所得から控除できるため、被害額が大きい場合に活用できます。
ただし、繰越をする際は損失が生じた年分以降も連続して、確定申告を行う必要がある点は知っておきましょう。繰り越した雑損控除は、各年の他の所得控除よりも優先して控除されるので、税負担はかなり軽減されます。
雑損控除の申請方法と必要書類
雑損控除を利用するには、確定申告によって申請する必要があります。以下では、具体的な申請の流れと必要な書類について解説いたします。
申請方法
雑損控除の申請は、確定申告書に必要事項を記入して税務署へと提出します。流れは以下の通りです。
1. 雑損控除の金額を計算する
2. 確定申告書の「所得から差し引かれる金額」の「雑損控除」に控除額を記載
3. 確定申告書 第二表「雑損控除に関する事項(26)」に必要事項を記入
4. 領収書などを添付して税務署へ提出
「雑損控除に関する事項(26)」にある損害の原因には、火災や盗難など損害を受けた理由を記載します。損害を受けた資産の種類は、自動車や家財など損害のあった物を記入してください。
書類が完成したら税務署へ提出します。税務署には窓口への直接提出・郵送・e-taxでの電子提出の3つの方法で提出ができます。e-taxであれば、確定申告の提出期間である2月16日〜3月15日のいつでも好きなタイミングで提出可能です。
必要書類
雑損控除の申請をする際は、確定申告書以外にも必要な書類があります。必ず書類が揃っているか確認したうえで、提出を行いましょう。
• 確定申告書
• 被害額の証明書
• 災害に関連して支出した費用がわかる領収書
• 源泉徴収票(会社員の場合)
• マイナンバーカードの写し
雑損控除を受けるには被害額の証明書が必要です。火災なら消防署、盗難なら警察署で発行してもらえます。災害の場合は、市区町村が罹災証明書を発行しています。津波などで証明書がない場合でも、取得価額や取得年月日がわかる書類があると申告が可能です。
そのほか、災害などによって自宅の修復・取り壊しなどが発生した場合は、その支出をした際の領収書も必要です。
申告期限について
通常確定申告は毎年2月16日〜3月15日までに申告をする必要があります。しかし、申告が雑損控除のみで確定申告の義務がない人や、所得税の還付を受ける申告である場合は、控除が受けられる年分の翌年1月1日から5年間、いつでも確定申告が可能です。
つまり、3年前に受けた火事などの被害に対する雑損控除をすぐに申請できていなかった場合でも、発生から5年以内であれば遡っての申告ができることになります。
また、災害によって期限までに確定申告ができない場合でも、「災害による申告、納付等の期限延長申請書」を税務署に提出すれば期限が延長されます。災害によって税金の納付が難しい際も、「納税の猶予申請書」を提出すればペナルティなしで納付期限を延長できるので、万が一のときも安心です。
雑損控除以外に使える災害時の減免法
災害時には雑損控除以外にも、減免法を使って所得税を軽減できます。災害減免法の利用は、以下の条件に当てはまっている人が対象です。
• 所得の合計額が合計1,000万円以下
• 損害額のうち保険金などで補填された金額以外の額が、住宅や家財の額の2分の1以上
軽減される額は、その年の所得金額によって以下のように異なります。
| その年の所得金額 | 所得税及び復興特別所得税の軽減額 |
|---|---|
| 500万円以下 | 全額免除 |
| 500万円超750万円以下 | 2分の1の軽減 |
| 750万円超 | 4分の1の軽減 |
災害減免法によって所得税の軽減免除を受けるためには、損失額の明細書が必要です。会社員の場合は会社に「源泉所得税の徴収猶予・還付申請書」を提出すると、災害のあった日以降の、給与から引かれる所得税の源泉徴収が猶予されます。
災害減免法は雑損控除との併用はできません。どちらか一方のみが適用されるため、軽減額を計算し、効果の大きい方で申請しましょう。
雑損控除との違い
雑損控除との違いについて、以下にまとめました。
▼雑損控除
| 対象の資産 | 生活に通常必要な資産 |
|---|---|
| 控除額・軽減額 | (損害金額+災害等関連支出の金額-保険金等の額)-(総所得金額等)×10%、または災害関連支出の金額-5万円のどちらか多い方 |
| 翌年以降の繰り越し |
控除しきれない金額は、翌年以後3年間は繰り越し可能 |
▼災害減免法
| 対象の資産 | 住宅又は家財の損失額が、その価額の2分の1以上である場合 |
|---|---|
| 控除額・軽減額 | 500万円以下:全額免除 500万円超750万円以下:2分の1の軽減 750万円超:4分の1の軽減 |
| 翌年以降の繰り越し | 減免を受けた年の翌年分以降の減免は受けられない |
災害減免法は自然災害の被害に遭った場合のみが対象ですが、雑損控除は盗難や横領などの災害以外も対象になります。また、翌年以降に繰越ができるなど、雑損控除は適用の範囲や期間が災害減免法よりも広い点が特長です。
自治体によっては独自の減免制度がある
災害によって損害を受けた場合、災害減免法以外にも自治体で用意している減免制度を利用できるケースがあります。東京都の場合は「都民の減免」と呼ばれる、納期限前の税金を被災の程度等によって軽減または免除を受けられる可能性があります。
減免を受けるには納税者本人が申告を行う必要があるため、被害に逢ったらなるべく早く申請を行いましょう。減免の対象になる税金は以下の通りになります。
• 個人事業税
• 固定資産税・都市計画税(23区内)
• 不動産取得税
• 個人の都民税
• 軽油引取税
• 事業所税(23区内)
• 自動車税種別割
東京都の場合は上記の税金で減免が受けられます。都道府県や自治体によって制度は異なりますので、まずは住んでいる地域で独自の減免制度が用意されているか確認してみてください。
まとめ
雑損控除の概要や、適用条件などについてご紹介しました。雑損控除は災害・火事・盗難などによって、資産に損失を受けた場合に受けられる所得控除です。控除を利用できるのは、生活に必要な資産を持っている納税者本人または、扶養親族となります。
事業用の資材や別荘などの娯楽目的の不動産は、対象になりません。雑損控除を利用するには必要書類を揃えて、確定申告を行う必要があります。災害や火事などに遭った際などは証明書を受け取り、保管しておきましょう。
地震や水害などの自然災害に遭った場合には、災害減免法も選択できます。雑損控除との併用はできませんので、控除額や軽減額を比較し、より多い方で申請をしましょう。万が一の時の税負担を軽減できる雑損控除は、知っておいて損はありません。いざという時のために、ぜひ仕組みを理解しておいてください。