仕事中の怪我は労災保険が適用になる!迷いやすいケースや申請方法についても解説

  • ちょっと得する知識

仕事中に起こった事故で怪我をした場合、労働災害として保険が適用になる場合がほとんどです。しかし、具体的にどのような場合に適用されるのか知らない人も多いでしょう。今回は労災保険の概要から認定基準、申請方法などについて解説します。迷いやすいケースについてもご紹介していますので、労災保険について知りたい人は、ぜひご一読ください。

労災保険とは

労災保険とは仕事中や通勤途中に怪我をしたり、病気になったりした場合に利用できる保険のことです。怪我や病気になった労働者、または遺族が保険金を受け取れる制度です。健康保険とは異なり、業務中や通勤途中に発生した傷病にのみ保険が適用されます。また、労災保険は健康保険とは違い、個人の医療費負担は発生しません。

従業員を1人でも雇用している事業主は、労災保険へ加入する義務があります。雇用形態による制限はなく、正社員以外にも契約社員やパート・アルバイト、日雇い労働者などすべての従業員が労災保険の加入対象となります。加入についての年齢制限もないため、未成年や65歳以上も加入対象です。

労災保険の保険料は全額事業主が負担するため、労働者が保険料を支払う必要はありません。保険料は前年度に会社が労働者へ支払った賃金総額に、労災保険料率をかけて決定します。保険料率は業種によって異なり、比較的発生しやすい業種は高く設定されています。

労災保険の認定基準とは

労災保険は仕事中や通勤中の傷病に使用できますが、すべてが対象になるわけではありません。一定の要件を満たしていない場合は労災保険ではなく、通常の健康保険での治療となります。

業務中の傷病の場合は、事業主と従業員の間に労働契約関係があることが前提のため、業務委託関係の場合は労災に該当しません。また、労働者が会社の管理下に置かれていること、ある業務を行ったことで災害が発生したと認められる必要があります。基本的に、業務を行っていた際に発生した怪我は、労災として認定される可能性が高いでしょう。

通勤途中の場合、自宅と職場の往復・職場から別の職場への移動・単身赴任者が自宅へ戻る際などに傷病が発生すると、労災と認定されます。通勤途中で合理的な通勤ルートから外れた際に起きた傷病については、労災が下りない可能性があります。ただし、日用品の購入や通院など、やむを得ない理由や日常生活をする上で必要な行為のための逸脱については通勤と認められる可能性が高いでしょう。

労災保険を利用できるか判断が分かれる事例

労災保険は業務中に発生した傷病については、基本的に認定される場合が多いですが、中には判断が分かれる事例もあります。以下では判断が分かれやすい3つのケースと、認められない場合についてご紹介いたします。

腰痛

腰痛が、突然かつ急激な力が作用したことで起こった場合、以下の2つの要点を満たしていると労災として認定されます。

• 腰痛の原因となった急激な力の作用が、仕事中の突発的な出来事によって生じたと明らかに認められること
• 腰に作用した力が腰痛を発症させ、または腰痛の既往症や基礎疾患を著しく悪化させたと医学的に認められること

例えば、高所から落下した・転びそうになって踏ん張ったことで痛めた・転倒によって腰を打ったなどの場合は、労災として認定されるでしょう。長期間蓄積されたダメージが腰痛として表れた場合も、以下のケースでは労災と認められる可能性があります。

• 一定の業務に約3ヶ月以上従事したことによる筋肉等の疲労が原因
• 重量物を取り扱う業務に約10年以上従事したことで、骨が変化してしまい腰痛が発症した場合

例えば、長距離トラックの運転によって同一の姿勢を継続し続けたケースや、約20kg以上の荷物を労働時間の半分以上運び続けるなどの業務に長期間就いていて、腰痛が発生した場合は、労災認定されるでしょう。

脳や心疾患

脳出血・脳梗塞・心筋梗塞などの脳や心疾患も、業務での過剰な負荷が原因であると認められる場合は労災となります。業務での過剰な負荷であると認められるのは、以下のようなケースです。

• 発症前の長期間、著しい疲労の蓄積をもたらす過重な業務を行っていた
• 発症した時期の近い時期に、過重な業務を行っていた
• 発症の直前から前日までの間に、精神的・身体的に強い負荷が生じる事態の発生や、急激な作業環境の変化などが生じた場合

精神疾患

パワハラなどにより精神疾患を患ったときも、労災に認定されるケースがあります。強度のパワハラが行われていたり、中程度でも継続したパワハラがあったりしたことで、その後約6ヶ月以内にうつ病などの精神疾患となった場合は、労災認定される可能性があります。

ただし、家族の死亡や精神疾患の既往歴など、業務外で精神疾患の発症原因となりうる事情がない場合に限ります。パワハラ以外にも、同僚からの暴行や嫌がらせを受けたことで精神疾患を発症した場合も認められる可能性があります。

認められない場合

労災が認められないのは、以下のような場合です。

• 自然災害によって被災した
• 個人的な恨みなどで第三者から暴行を受けた
• 休憩中に業務とは無関係のことを行い怪我をした

業務時間でも業務と関係がない場面で怪我をした際は、労災認定されない可能性が高いでしょう。

労災保険の給付の種類

労災保険には災害と、給付される補償の内容がそれぞれ分かれています。以下では、労災に含まれる災害と、給付される8つの補償についてご紹介いたします。

業務災害

業務の際に発生した傷病は、業務災害に分類されます。仕事中に高所から落下したり、機械に巻き込まれて怪我をしたりした場合は業務災害となります。会社の管理下であり、業務を行ったことで怪我が発生したという因果関係が認められることが、労災に認定されるための条件です。

通勤災害

職場と自宅の往復や、職場Aと職場Bを移動した際に起こった傷病は、通勤災害に分類されます。通勤途中で交通事故に遭うなどが、代表的なケースです。会社に届け出ている通勤経路や通勤方法とは異なる場合は、通勤災害として認められません。ただし、日常生活の買い物など合理的な理由がある場合は、通勤災害として認められます。

療養補償給付

療養補償給付とは、労働者が仕事や通勤の時に傷病を負って通院や入院が必要となった際に、原則無料で治療を受けられる制度です。怪我や病気が治癒するまでは、治療費や薬代が給付されます。状況によっては、通院時の交通費も支給される場合があります。

休業補償給付

休業補償給付は労働者が仕事や通勤時に傷病を負い、その療養のために働けない場合に給付を受けられる制度です。賃金を受けられるのは4日目からで、対象となる給付基礎日額の60%に相当する額が補償されます。

また、給付基礎日額の20%が特別支給されるため、全体の80%が支給されます。給付基礎日額は業務や通勤時の傷病が発生した日以前「3ヶ月」の賃金総額を、その期間の総日数で割った額になります。

傷病補償年金

傷病補償年金は労働者が仕事や通勤時に傷病を負い、療養を開始してから1年6ヶ月経っても治癒しておらず、障害の程度が傷病等級に該当するときに給付されます。休業補償給付を受けたあと、1年6ヶ月を経過しても傷病等級の1〜3級に該当していると、休業補償給付から傷病補償年金に切り替えられます。

障害補償給付

障害補償給付は労働者が仕事や通勤時に傷病を負い、治癒した後に一定の障害が残った際に支給される給付金です。障害等級が8〜14級に該当する場合は一時金として、1〜7級に該当するときは、年金形式で給付が行われます。等級によって給付額は異なり、14級なら給付基礎日額の56日分、1級なら給付基礎日額の503日分が支給されます。

介護補償給付

傷病補償年金や障害補償給付を受けている人で、介護を受けている人は介護補償給付の対象です。支給される額は介護の状況によって、以下のように異なります。

• 常時介護:介護のために支出した額分(177,950円が上限)
• 親族から介護を受けていて費用がかからない・支出が85,490円以下:85,490円
• 随時介護:介護のために支出した額分(88,980円が上限)
• 親族から介護を受けていて費用がかからない・支出が42,700円以下:42,700円

遺族補償給付

遺族補償給付は労働者が仕事や通勤中の傷病によって死亡した時に、その遺族に支給される給付金です。もし死亡した労働者に遺族年金を受け取る人がいなかった時は、一時金が支払われます。年金形式の場合、遺族の人数によって給付される金額は異なります。

葬祭料

葬祭料は、仕事や通勤中の傷病によって死亡した人の葬祭を行う時に支給されるお金です。31,500円に給付基礎日額の30日分を加えた額が支給されます。ただし、計算した金額が給付基礎日額の60日分に満たない場合は、給付基礎日額の60日分が支給されます。

二次健康診断給付

二次健康診断給付は、会社が実施する定期健康診断を受けた際に、脳・心疾患に関連する全てで異常の所見があると認められた時に給付されます。ただし船員法の適用を受けている船員や、特別加入者は対象外です。

労災保険の申請の流れ

労災保険を申請する際は、会社に労働災害が発生したことを報告しましょう。その後、労働基準監督署へ提出するための書類を作成します。給付内容によって内容が異なるため、会社に確認をして必要書類を揃えましょう。その後、労働基準監督署の調査が入り、労災と認定されると保険金が給付されます。

労災保険を使用する際の注意点

労災保険を使用する際は、以下にご紹介する3つの注意点を確認しておきましょう。

資料は残る形で保存する

労災保険を使用する際は、労働者が会社に報告し、会社が労働基準監督署へと報告をします。会社から労働基準監督署への報告内容が正しいかどうかを確認する必要がありますが、ほとんどの場合は内容を知るのは難しいでしょう。

後からでも確認できるよう、自身が持っておける資料は、保存しておく必要があります。写真・データ・紙などの形で残しておき、スムーズに事故の発生状況が確認できるようにしておくと安心です。

健康保険の利用はできない

業務中に事故が発生して病院へ行く際、健康保険の利用はできません。そのため健康保険証を提示せず、労災である旨を伝えて診察を受ける必要があります。初診時の病院での対応はさまざまで、窓口にて預かり金を求められる場合もあります。

共通しているのは、「療養補償給付たる療養の給付請求書」の提出が必要な点です。もし、健康保険を利用して受診した際は、後から労災保険への切り替え手続きを行いましょう。

事業主が未加入でも利用できる

事業主が労災保険への加入手続きをしていないケースや、労災保険料を滞納していた際でも、労働者は労災保険からの補償を受けられます。労災保険に未加入で労災が発生した場合は、事業主へ追徴金や労災保険給付額の徴収などのペナルティが発生します。

なぜ労災保険の利用を嫌がる会社があるのか

労災が発生して申請をしようとすると、会社に嫌がられたという話はめずらしくありません。会社側が労災保険の利用を嫌がるのには、以下のような理由があります。

• 手続きの手間
• 労災認定を避けたい
• 会社との認識の不一致

労災が認定されると、会社は従業員からの損害賠償請求のリスクが高まる・行政への入札に参加できない・労災が認められた従業員の解雇が制限されるなどの影響が発生します。そのため、労災認定を避けたがったり、会社としては認めないといったトラブルになる可能性があります。

まとめ

労災の概要や給付の種類、申請の流れなどについてご紹介しました。労災は業務中や通勤途中に傷病を負った場合に利用できる保険です。一定の要件を満たしていれば申請ができますので、仕事中に傷病を負った際は一度会社に報告し、労災の申請を行えるか相談しましょう。

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