高額医療費制度とは?申請方法や注意点、マイナ保険証との関係をご紹介

  • ちょっと得する知識

年を重ねていくと年々、体の不調や不安を感じる方は多いでしょう。怪我や病気のリスクも増え、医療費の負担も増えていきます。今回は万が一のときに利用できる、高額医療費制度の概要から申請の流れ、マイナ保険証を利用している場合や注意点などについて解説します。

高額医療費制度とは

高額医療費制度とは、1日から月末までの同じ月の間にかかった医療費の自己負担額が高額となった場合に、自己負担限度額を超えた分が後で払い戻される制度です。

上限額は年齢によって異なる

高額医療費制度の上限額は、年齢によって異なります。それぞれの上限額については、以下の通りです。

▼69歳以下の場合

適用区分 世帯ごとのひと月の上限額
・住民税非課税 35,400円
〜年収約370万円
健保:標報26万円以下
国保:旧ただし書き所得210万円以下
57,600円
年収約370〜約770万円
健保:標報28万〜50万円
国保:旧ただし書き所得210万〜600万円
80,100円+(医療費-267,000)×1%
年収約770〜約1,160万円
健保:標報53万〜79万円
国保:旧ただし書き所得600万〜901万円
167,400円+(医療費-558,000)×1%
年収約1,160万円〜
健保:標報83万円以下
国保:旧ただし書き所得901万円以下
252,600円+(医療費-842,000)×1%

70歳以上の人の上限額はさらに、条件が細かくなります。

▼70歳以上の場合

適用区分 世帯ごとのひと月の上限額 世帯ごとのひと月の上限額 外来(個人ごと)
Ⅰ住民税非課税
年金収入80万円以下など
15,000円 8,000円
Ⅱ住民税非課税 24,600円 8,000円
年収156万〜約370万円
標報26万円以下
課税所得145万円未満等
57,600円 18,000円(年144,000円)
年収約370〜約770万円
標報28万円以上
課税所得145万円以上
80,100円+(医療費-267,000)×1% -
年収約770〜約1,160万円
標報53万円以上
課税所得380万円以上
167,400円+(医療費-558,000)×1% -
年収約1,160万円〜
標報83万円以上
課税所得690万円以上
252,600円+(医療費-842,000)×1% -

参照元:厚生労働省 「高額療養費制度を利用される皆さまへ」

例えば、69歳以下の年収が約330万円〜770万円の人で、医療費の総額が100万円、窓口での支払いが30万円の場合の自己負担額は以下のようになります。

▼自己負担額
80,100円+(100万円-267,000円)×1%=87,430円

▼払い戻し額
窓口支払額30万円-自己負担額87,430円=212,570円

自己負担額の上限額は、1つの医療機関では超えなくても、同じ月に別の医療機関を受診した際の自己負担額を合算できます。合算した金額が上限額を超えていれば、高額療養費の支給対象です。

対象となる医療費

高額医療費制度で対象となる医療費は、保険適用がされる診療に対して、患者が支払った自己負担額です。また、病院を受診した際に発生した費用のほかに、調剤薬局で処方された薬剤費も対象となります。入院時に希望したベッドの差額代などは対象外です。

高額医療費制度を申請する流れ

高額医療費制度を利用するためには、申請が必要です。申請をする際は、一度自身で医療費を支払った後に、自身が加入している公的医療保険へ、高額療養費の支給申請書を提出します。ただし、加入している保険や申請するタイミングによって、必要となる書類は異なります。

事前申請に必要な書類

高額医療費制度は療養前や途中など、終了する前の事前申請が可能です。もし、自己負担限度額を超える見込みがある場合は、限度額適用認定証を交付してもらえます。限度額適用認定証を窓口で提示すれば、窓口での支払額が自己負担上限額までに抑えられます。

事後申請に必要な書類

支払い後に高額医療費制度を利用する場合は、限度額適用認定書を各健康保険組合に提出します。原則、医療費を支払った月の3ヶ月後に送付される申請書に必要事項を記入し、医療機関の領収書などを添付して提出します。

必要書類について、全国健康保険協会の場合は、課税証明書や本人確認書類、戸籍謄本が求められる場合があります。

参照元:全国健康保険協会 「健康保険高額療養費支給申請書」

マイナ保険証を利用した高額医療費制度の申請

マイナンバー保険証を利用している場合、高額医療費制度の申請手続きは不要になります。

従来の保険証であれば申請が必要だったため、一度窓口で全額を支払う必要があります。しかし、マイナンバー保険証の場合は申請に必要な情報の提供に同意していれば、限度額適用認定証がなくても、自己負担上限額を超える費用を支払う必要がありません。

医療費の負担を軽減するために

高額医療費制度を利用しても、自己負担額が高い場合に利用できる、負担軽減方法をご紹介します。利用できる制度はないか、事前に確認しましょう。

世帯合算を利用する

個人の医療費では自己負担額の限度額に届かない場合でも、同一世帯内で合算した場合に限度額を超えていれば、高度医療費制度が利用可能です。利用するためには、世帯の全員が同じ健康保険に加入している必要があります。

もし、父・母・子の3人世帯の場合、同じ場所に住んでいれば戸籍上は同一世帯となります。しかし、父と子が協会けんぽ、母のみが国民健康保険に加入している場合は、公的医療保険上の世帯は父と子が同じ世帯、母のみが別世帯です。

同じ健康保険に加入していれば、住所が違っていても同一世帯として合算可能です。また、合算できる金額は69歳以下の人は21,000円以上の自己負担額、70歳以上の人はすべての自己負担限度額を合算できます。

多数回該当を利用する

自己負担限度額が過去12ヶ月以内で3回以上、上限額に達した場合は、4回目から多数回該当を利用できます。多数回該当は、加入している公的医療保険が変わらない限りは回数が継続されます。

また、多数回該当は世帯合算した場合の高額療養費にも適用可能です。多数回該当となった場合、年齢によって金額が以下のように変わります。

▼69歳以下の人の場合

所得区分 本来の負担の上限額 多数回該当の場合
住民税非課税
35,400円 24,600円
〜年収約370万円 57,600円 44,400円
年収約370〜約770万円 80,100円+(医療費-267,000)×1% 44,400円
年収約770〜約1,160万円 167,400円+(医療費-558,000)×1% 93,000円
年収約1,160万円〜 252,600円+(医療費-842,000)×1% 140,100円


▼70歳以上の人の場合

所得区分 本来の負担の上限額 多数回該当の場合
〜年収約370万円 57,600円 44,400円
年収約370〜約770万円 80,100円+(医療費-267,000)×1% 44,400円
年収約770〜約1,160万円 167,400円+(医療費-558,000)×1% 93,000円
年収約1,160万円〜 252,600円+(医療費-842,000)×1% 140,100円

参照元:厚生労働省 「高額療養費制度を利用される皆さまへ」

限度額適用認定証交付を受ける

高額医療費制度は、自己負担限度額を超えた分が後から払い戻される仕組みです。しかし、「限定額適用認定証」があると、最初から支払う自己負担額を抑えられます。

「限定額適用認定証」の交付を受けるためには、事前申請が必要です。あらかじめその月に支払う予定の医療費の自己負担額を超えると見込まれる場合、加入している公的医療保険に申請しましょう。

高額医療費制度以外の負担軽減制度

高額医療費制度以外にも、窓口での費用負担が難しい場合に負担軽減するための制度が用意されています。

もし、高額医療費制度を申請した後から、支払いをされるまでの間の医療費の支払いが難しい場合は、高額医療費貸付制度を利用しましょう。この制度を利用すると、高額療養費の支給見込額の8割相当を、無利子で借りられます。

また、自己負担上限額を超えた分を市区町村が代わりに支払う、高額療養費受領委任払制度や高額療養費資金貸付制度が利用できる場合もあります。さらに、医療費と介護費の負担が重くなる場合は、高額医療・高額介護合算療養費制度も利用できるでしょう。

少しでも自己負担額を抑えられないか、怪我や病気になった場合は、ぜひ確認しましょう。

高額医療費制度を利用するときの注意点

高額医療費制度を利用するときには、いくつか注意しておくべき点があります。申請時や支払い時に知っておくべき点を、3つご紹介します。

申請は1ヶ月ごとが基本

高額医療費制度の申請は、1ヶ月ごとに行うのが基本です。入院などで月をまたいで高額な医療費が発生した場合、それぞれの月ごとに分けて、上限額までの自己負担が必要です。

例えば入院の場合は、入院するタイミングにもよりますが、20日以上であれば月をまたぐ可能性が高まります。高額な医療費が発生する場合は、支払い額と自己負担額についての計算などを行いましょう。

最初の支払いは全額支払いが原則

高額医療費制度は原則1か月の医療費の上限額を定め、超過した分に対して支給するという制度です。原則としては、窓口で支払いをする場合は全額支払いが必要です。

例えば、医療費の総額が60万円で、窓口での支払額が18万円だった場合、まずは18万円を自身で支払います。その後、自己負担上限額の83,430円を引いた、96,570円が支払いをした3ヶ月以上後に払い戻しされます。

最初から支払い額は自己負担上限額までだと思っていると、会計の時に金額が足りないと慌てることになるでしょう。原則は窓口で請求される金額を、すべて自分で支払う必要があると知っておきましょう。

対象外となる費用がある

高額医療費制度では、すべての医療費が対象となるわけではありません。以下のような費用は、対象外です。

• 差額のベッド代
• 食事代
• 先進医療の技術料

差額ベッド代とは個室などを希望した場合、基本の料金とは別途でかかる費用です。金額は医療機関ごとに異なり、希望する部屋のタイプによっては、さらに金額がかかります。

先進医療とは、健康保険適用になる前の先進的な医療技術であり、その費用の10割が自己負担となる治療です。また、厚生労働省が先進医療と認めている治療のみが、先進医療に該当します。

保険適用にならないため、高額療養費制度の対象にはなりません。例えば、がん治療などで入院し、先進医療を受けた場合にかかる金額は以下の通りです。

治療名 治療費
重粒子線治療 313万5,656円
陽子線治療 265万9,010円

参照元:先進医療情報ガイド「先進医療の費用について」

もし、先進医療を受けるとなった場合は治療内容にもよりますが、数万円〜数百万円の自己負担が発生します。

まとめ

高額医療費制度とは、窓口負担額が高額となった場合に、一定の金額を超えた分を後で払い戻す制度です。年齢や所得によって、ひと月の自己負担上限額は異なります。申請は原則として、窓口で支払いをした後に申請書を提出し、後日自己負担額分を引いた分が支払われる形です。

まずは、窓口で請求された金額を全額支払う必要があるほか、払い戻しには数ヶ月の時間がかかる点は知っておく必要があります。もし、制度を利用しても自己負担額が高額になる場合は、世帯合算や多数回該当などの制度も利用しましょう。

高額医療費制度について知っておけば、万が一医療費が高額になっても安心です。病気や怪我のリスクが高まるミドルシニア世代は、特に制度の内容について把握しておきましょう。

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