転職するリスクと在籍し続けるリスク|「ミドルシニアのためのキャリアの教科書」vol.08
- 木村勝のキャリアの教科書
- 公開日:2018年2月15日
中高年専門ライフデザインアドバイザーの木村です。前号では、ミドルシニアの皆さんが今後取りうる選択肢として、①「今の会社に勤め続ける」、②「転職する」、③「出向する」、④「独立起業する」の4つのシナリオをあげてみました。
今回は、多くの読者の皆様が想定している現実的なシナリオである「今の会社に勤め続ける」ことと「転職する」ことにスポットをあてて、「ミドルシニアの視点から押さえておかなければならないポイント」について考えていきたいと思います。今回は「今の会社に勤め続ける」シナリオを取り上げます。
「一つの会社に在籍し続ける」選択は王道であり続けるか
ビジネスパーソンが「今の会社に勤め続ける」というと、「会社にぶら下げる」「会社にしがみつく」といったネガティブなイメージで語られがちですが、今も昔も多くのビジネスパーソンが結果として歩むことになる王道ともいえるシナリオです。
前号でも書きましたが、高度成長の時代にはこのシナリオこそ唯一かつ盤石な選択肢であり、何も考える必要もなく長年勤続を積み上げてきた日本のビジネスパーソンは、このルートを疑うことなく歩んできました。今後もこのシナリオが万人に当てはまるゴールデンルートになりうるのかどうか、確認していきたいと思います。
「自身のキャリアを振り返らずに流される」ことこそ最大のリスク
これからのミドルシニアは、「働けるうちは働く」ためにも、会社に任せっきりではなく、自分自身の自律的なキャリア戦略を持っておく必要があります。そのためには、「どこかの時点で立ち止まり、じっくりと自らのキャリアを考えるタイミングを設けること」が重要です。
しかしながら、このシナリオを選択する大部分のミドルシニアの方は、(失礼ながら)「まわりのみんなもそのまま働くから」「特にやりたいこともないし」「まずは取りあえずそのまま。そのうち考えよう」という何となくの理由から会社に在籍し続けるというシナリオを選択しています。
第1回のコラムでも書きましたが、現代は65歳雇用義務化により、60歳定年というポイントが単なる通過点になっています。そのような時代において、自らのキャリアを振り返る機会もなく60歳以降の仕事に「なし崩し的に突入する」ことは大きなリスクと考えなければなりません。
しかしながら、「今の会社で働き続ける」という流れに乗った瞬間、自分自身の将来キャリアに関しても思考停止状態(将来については目をつぶって敢えて考えないようにする)になり、仕事に対しても、「今さらでしゃばっても周りの迷惑」「穏便につつがなく毎日を過ごそう」というスタンスにどうしてもなりがちです。
こうした状態が続くとせっかく長年積み上げてきた自分のスキル・知識・経験も空気が抜けるように陳腐なものになっていきます。「気力LESS状態」では人生100年時代を乗り切ることは難しいといえます。なぜなら、これからの時代は今の会社を終えた65歳以降の人生が長いためです。
このように、キャリアを振り返ることなく流されるように安直にレールに乗り続けることこそが、このシナリオ最大のリスクです。少なくとも「何も考えずにそのルートを選択する」のではなく、「考えに考え抜いてその結果として選択する」という自分なりの納得感を得た上でこのシナリオを選択しないと後々後悔することになりかねません。
継続勤務後の再雇用ならば、収入面では「給与半減」を覚悟する
人事の専門誌「労政時報」が2013年に大企業を対象に実施した「中・高年齢層の処遇実態」という調査結果があります。この調査結果に基づき、定年退職後再雇用時の年収を確認してみると、定年到達時の年収はピーク時の「40%~50%未満」が最頻レンジとなっています(平均は54.2%)。
つい最近も1月27日日経朝刊に「JR東日本 再雇用者給与引き上げ」という記事が出ていました。再雇用シニアの処遇アップという前向きなトーンの記事でしたが、その内容は「今までの定年間際の5割の給与を今後6割に引き上げる」というものでした。親方日の丸のイメージが強いJR東日本ですら「やはり再雇用後の賃金は半減なのか」とある意味で現実的な厳しさを感じました。
また、このシナリオでもう一つの問題は、60歳以降給与が上がる見込みがほとんどないことです。先ほどの「労政時報」では、昇給・ベースアップの取り扱いについても企業の人事部にアンケート調査を行っていますが、その結果は、「昇給・ベースアップとも再雇用者には適用しない」という企業が約4分の3を占めています。
60歳以降の給与は単年度契約更新ですので、会社業績や外部経営環境が悪化したら翌年の契約更新時には下がる可能性もあります。「3%賃上げ」を旗印に今年の春闘は久しぶりに政労使とも盛り上がりを見せていますが、「下がる可能性はあるのに上がる可能性はない」という定年再雇用者への処遇はなんともやるせない限りです。
専門性や経験を求められない職場へ赴くリスクも想定しておく
流れのまま60歳以降も今の会社に再雇用された場合の仕事はどうなるのでしょうか?
先ほどの「労政時報」(第3852号)の調査を見てみます。フルタイム勤務の職務内容を見ると、「定年前と同一職務・同一部署」が57.8%と最多になっています。半分以上のケースで定年前と同じ職場で同じ仕事で仕事をこなしています。
現状では、定年再雇用に対するはっきりとした会社(人事)の方針が決まっていないため、「取りあえず今の仕事をそのままよろしく」という場当たり的な対応が上記の数字になっています。しかしながら、今後60歳以降の社員が会社における占めるボリュームゾーンが大きくなればなるほど、同じ職場で同じ仕事をあてがうことは難しくなります。
経営環境の変化により、部署ごとの人の過不足状況は大きく変わります。かつての花形部門もマーケットの変化で廃部や縮小されたり、あるいはM&Aで売却されたりすることは今後の会社生活の中では当たり前のように遭遇する事柄です。
また、2015年9月施行の改正労働者派遣法により「同じ派遣社員に同じ職場で3年を超えて働いてもらう」ことができなくなりました。また、改正労働契約法で2018年4月以降(まもなくですので各社準備を進めています)、契約更新により契約期間が5年を超えた有期契約労働者を労働者の申込みによって期間の定めのない労働契約に転換することも企業に義務付けられました。会社も従来のように「ノンコア業務は派遣社員や有期契約社員といった非正規従業員にお任せ」といった形での業務運営は難しくなっているのです。
まとめ
そうした中、なり手がなく人手が確保できない単純労働的なノンコア業務の要員として定年再雇用者を充当するケースも当然増えてきます。「会社生活の先達として今まで培ったノウハウ・経験の伝承をお願いします」など悠長なきれいごとを会社も言っていられないのです。
今までの経験・スキルは関係ありません。「今人手が確保できない職場で働いてくれ」と、まさに文字通りのコマのような使われ方をするケースも増えてくることが予想されます。
同一労働同一賃金の動きも「どうにか65歳まで逃げ切ろう」とするミドルシニアには逆風です。隣で一緒に働く派遣社員の方と仕事ぶりが比較されることになり、切り下げのリスクも想定しておかなければなりません。
60歳以降にどのような仕事があてがわれるか?それはその時になってみなければわかりません。
何をするか?誰の下で働くか?は、自身で決めることはできません。
「条件を含めすべてを会社の決定に身を委ねる」。
これが「今の会社に勤め続ける」というシナリオの本質なのです。