退職所得控除とは?計算方法や手続きの流れ、2026年改正のポイントも合わせて紹介
- 転職・退職ノウハウ
- 公開日:2026年3月23日
退職金は、老後の生活基盤を支える大きな財産です。しかし、退職金には退職所得控除があり、手取りが想像よりも少ないと感じるケースも少なくありません。今回は退職所得控除の概要や、2026年の改正点などご紹介します。3月末頃に退職を控えている方、退職金の受け取り予定がある方は、ぜひご一読ください。
退職所得控除とは
退職所得控除とは、退職金を受け取った時に、課税対象額を計算する前に差し引くことができる非課税枠のことです。
退職金を受け取ると、退職所得に分類されて課税されます。勤続年数による控除額を計算し、退職金が控除額以上となった場合、所得税と住民税が課税される仕組みです。
退職所得控除は、退職金の税負担を軽減し、老後の生活資金を確保できるように配慮されています。退職所得控除は、退職を直接の理由として支給されるお金が対象となり、割増退職金や退職金などが対象です。
退職金の税金の計算方法
退職金の計算をする際は、所得税と住民税で計算式が異なります。まず、退職金の所得税を計算する式は以下の通りです。
(源泉徴収前の収入金額-退職所得控除額)×2分の1=退職所得の金額
使用する退職所得金額の計算は、以下の通りです。
• 勤続年数20年以下:40万円×勤続年数
• 勤続年数20年超:800万円+70万円×(勤続年数-20年)
勤続年数が1年未満の端数日がある場合は、繰り上げて計算をします。例えば、勤続年数が20年10日なら、21年として退職所得控除の計算を行えます。もし、勤続年数が20年なら、40万円×20年で控除額は800万円、30年なら800万円+70万円×(30年-20年)=1,500万円となります。
退職金が2,000万円で控除額が1,500万円なら、課税対象は(2,000万円-1,500)×2分の1=250万円です。ただし、役員の場合は勤続年数が5年以下の「特定役員」に該当すると、2分の1の軽減措置が対象外です。
退職所得控除は、過去に退職金を受け取っていると調整が必要になるケースがあります。前年4年以内に他の退職手当を受け取っていた場合、勤続年数が重複する分の控除額を差し引きます。
例えば、A社で勤続10年、B社で勤続5年のうち4年が重複する時、2回目の控除額が200万円-160万円=40万円となります。
所得税
退職金の所得税は、以下の所得税の税額表を使って計算します。
| 課税退職所得金額 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 1,000円〜194万9,000円 | 5% | 0円 |
| 195万円〜329万9,000円 | 10% | 9万7,500円 |
| 330万円〜694万9,000円 | 20% | 42万7,500円 |
| 695万円〜899万9,000円 | 23% | 63万6,000円 |
| 900万円〜1799万9,000円 | 33% | 153万6,000円 |
| 1800万円〜3999万9,000円 | 40% | 279万6,000円 |
| 4000万円以上 | 45% | 479万6,000円 |
課税対象が250万円の場合、税率が10%、控除額が9万7,500円となり、所得税は15万2,500円です。さらに、復興特別所得税額(15万2,500円×2.1%=3,202円)を足して、15万5,702円が納付する金額になります。
住民税
退職所得にかかる住民税は、課税退職所得金額に一律10%の税率をかけて計算します。都道府県民税が4%、市町村民税が6%の計10%です。つまり、課税退職所得金額が250万円なら、250万円×10%=25万円となります。
退職金の税額は受け取り方で変わるのか
退職金は企業によって、一括受け取りか年金方式を選択できます。受け取り方によって、税額が変わるのか気になる人もいるでしょう。それぞれの受け取り方と、税額についてご紹介いたします。
一括受け取り
一括受け取りは、退職金を退職時にまとめて一括で受け取る方法です。この場合「退職所得」として扱われ、退職所得控除を活用して税額を計算するため、所得税や住民税は抑えられる傾向にあります。
翌年の社会保険料も反映されないため、負担を抑えて退職金を受け取りたい人に向いている受け取り方です。
年金方式
年金方式の場合は、退職金を5〜20年などの決められた期間や回数に分けて受け取る方法です。年金方式を選択すると、「雑所得」として扱われるため、総合課税の対象です。
受け取った年金額から公的年金等控除を差し引いて、公的年金や給与と合算して所得税や住民税が算出されます。年金方式を選択すると、翌年の社会保険料にも反映されるため、国民健康保険料や介護保険料の負担が重くなります。分割して安定的に受け取りたい人は、年金方式も検討してみてください。
2026年の退職所得控除の改正点
退職所得控除に関するルールが、2026年から改正されています。
①控除額調整期間が10年に延長
これまで退職所得控除では、iDeCoや企業型DCを一時金として先に受け取り、5年以上後に会社の退職金を受け取ると、それぞれに控除を満額適用できる「5年ルール」が存在していましたが、10年間に延長されました。
2025年までは、60歳でiDeCoを受け取った後に65歳で会社の退職金を受給すれば、どちらも退職所得控除を満額適用されていました。しかし、今回の改正では60歳でiDeCoを受け取ったら、退職所得控除が次に満額適用されるのは70歳を過ぎてからです。
これまで利用できていた受け取りプランでは、税負担が増える点を理解しておきましょう。なお、退職金を受け取った後にiDeCoなどの一時金を受け取る場合、退職所得控除を満額受けるには、受給期間を20年空ける必要がある点は変更されていません。
➁短期離職手当等の勤続年数重複を調整
退職所得が複数あり、その退職所得に関連する勤続年数が重複している時は、退職所得控除額の計算に調整が入ることになります。これまでは、退職所得が複数あるケースはあまりありませんでしたが、iDeCoや企業型DCの普及によって事例が増加したことにより、今回の改正となりました。
勤続35年間の人が12年間iDeCoに加入していた場合、2つの退職所得が発生しますが、受け取りタイミングが5年空いていれば、それぞれに退職所得が適用されていました。しかし、受け取り期間が10年以上に延長されたため、期間内に2つの退職金を受け取ることになり、調整が実施されます。
DC一時金500万円、退職一時金1,500万円を受け取る際の、改正前と改正後で金額を比較してみましょう。
改正前・DC一時金
• 退職所得控除:40万円×12年=480万円
• 退職所得の金額:(500万円-480万円)×2分の1=10万円
• 所得税・住民税の合計:約1.5万円
改正前・退職一時金(勤続期間は35年-DC加入期間12年で計算)
• 退職所得控除:800万円+70万円×(29-20)=1,430万円
• 退職所得の金額:(1,500万円-1,430万円)×2分の1=35万円
• 所得税・住民税の合計:約5.3万円
改正後・退職一時金
• 退職所得控除:1,430万円-重複分の退職所得控除480万円=950万円
• 退職所得の金額:(1,500万円-950万円)×2分の1=275万円
• 所得税・住民税の合計:約41.5万円
調整が入ることで控除額が変更され、大幅に税負担額が上昇する可能性があります。
③源泉徴収票の提出義務の範囲が拡大
これまで退職所得の源泉徴収票は、役員のみ提出が義務とされていました。しかし、2026年1月1日以降は、すべての従業員に提出義務があります。
従業員にとっては、受給履歴を忘れてしまい、申告が漏れていたなどのミスが防げるため、税務の透明性がアップします。しかし、企業側からすると人事・経理の負担が増加するため、システムやフローの見直しが必須です。
退職所得控除改正の背景
2026年に退職所得控除の改正が行われる背景として、課税の公平性があります。従来のルールでは、DC一時金を受け取った5年経過後に、退職金を受け取ると両方で退職所得控除を満額適用できていました。
勤続年数が被っていても、受け取り時期をずらせば二重で控除が利用できるので、不公平が出ていました。一人分の働きに対する対価に、控除が二重で適用されるのはおかしいと判断され、より公平性が保たれるようにと改正に至っています。
退職金とiDeCoを併用する時の注意点
ルール改正後に退職金とiDeCoの受け取りを控えている人は、受け取りの時に以下のポイントを考慮してみてください。
iDeCoは後に受け取る
これまで、iDeCoや企業型DCを先に一時金で受け取った後に、5年経過後に退職金を受け取ると、どちらも控除を満額利用できていました。しかし、ルールが改正されたことで、満額の適用される期間が10年間に延長されました。
そのため、先にiDeCoや企業型DCを受け取ってしまうと、後に受け取る退職金では控除額が減ってしまい、税額負担が増えてしまいます。今後、iDeCoを受け取ってから退職金を受け取ろうと検討していた方は、順番やタイミングを再考してみてください。
受け取り期間は10年空ける
複数の退職金等を受け取る場合、受け取り期間を10年以上空けないと、控除を満額利用できません。もし、60歳以降も働き続ける場合なら、60歳でiDeCoなどを受け取り、70歳以降に退職金を受け取ると満額適用されます。
しかし、就業環境や健康面など、働き続けるのは難しくなる可能性もあるでしょう。退職所得控除の利用にこだわり過ぎずに、自分の状況に応じて柔軟に対応を行ってください。
重複期間の勤続年数は控除計算から除外される
退職所得控除は、勤続年数を基に計算を行いますが、iDeCoなどへの加入期間と会社への勤続期間が重複する際は、重複年数は控除の計算から除外されます。勤続が35年、iDeCoの加入が12年の場合、それぞれに適用されるのではなく、iDeCoの加入期間を勤続期間から差し引いて計算を行います。
企業型DCなどに加入している場合は、加入期間を正確に把握しておかないと、手取り額が想定以上に減っていたという事態になるケースがあります。計算のルールや期間などは、事前に確認しておいてください。
退職金は確定申告が必要か
退職金を受け取ったら、確定申告が必要なのではないか?と不安な人もいるでしょう。勤務先に「退職所得の受給に関する申告書」を提出している場合は、退職金についての確定申告は必要ありません。
勤務先が源泉徴収と納税を行うので、本人による納税の手続きは不要です。ただし、「退職所得の受給に関する申告書」を提出しないで退職金を受け取った場合、一律20.41%が源泉徴収されます。
退職所得控除などを使用した計算とは、別の計算で納税されるため、税額が正しくない可能性があります。正しい税額で納税を行うためには、自身で確定申告が必要です。場合によっては、払い過ぎていたとして還付されるケースも。
まとめ
退職所得控除の基本や、改正された内容などについて紹介しました。退職所得控除は、受け取った退職金に係る税額を計算する際、退職金から差し引けるお金のことです。控除の利用によって税額を抑えられるので、老後の生活費をしっかりと確保できます。
2026年からは、控除額調整期間が5年から10年へ延長されたり、勤続年数の重複を調整したりという変更が行われています。想定していたよりも控除が利用できない、手取りが減ったとならないように、基本の内容や改正されたルールをご確認ください。