4月〜6月に残業すると社会保険料は高くなる?あわせて知りたい標準報酬月額の知識

  • ちょっと得する知識

会社員として働いていると「4月・5月・6月は働きすぎると、社会保険料が高くなる」という話を聞いたことがある人は多いでしょう。今回は社会保険料の概要から、計算方法のほか、社会保険料の計算に大きく関わる標準報酬月額について解説します。

社会保険料とは

社会保険は政府と自治体が連携して提供する社会保障制度の1つで、主に年金・医療・介護の3分野で提供されています。社会保険には、以下の5つの保険があります。

• 健康保険
• 介護保険
• 厚生年金保険
• 雇用保険
• 労災保険

このうち、労災保険のみ保険料は事業主の全額負担です。その他、4つの保険料は従業員と事業主の両方で負担する形となります。各保険の詳しい内容は、以下で解説します。

健康保険

健康保険は被用者保険と、国民健康保険の2種類があります。正社員の場合は被用者保険に加入しており、業務外のけがや病気による通院などを保障する保険です。病院の窓口への提示することで、自己負担額が3割で済むといった利点があります。

介護保険

介護保険は40歳以上の人を加入対象とする保険制度です。基本的には、65歳以上で要介護・要支援状態になった際に受給できます。具体的には病気などにより、日常生活で誰かの介護を必要とする状態になった場合に給付されます。また、65歳より前でも老化に起因する、特定疾病が認められた場合にも受給可能です。

厚生年金保険

厚生年金保険は、適用を受ける事業所で働いている正社員や公務員が加入します。原則、正社員本人を対象としているため、健康保険のように家族は含まれません。国民年金とは別の公的年金であり、老後の生活を保障する老齢年金などが該当します。

厚生年金保険のほか、健康保険や介護保険の3つを併せて、一般的には「社会保険」と呼びます。

雇用保険

雇用保険は、企業に雇用されている従業員が加入する保険です。加入する際には以下の条件があり、該当する人は雇用形態に関係なく加入します。なお、法人の取締役や公務員の場合は、雇用保険の加入対象とはなりません。

• 1週間の所定労働時間が20時間以上
• 31日以上の雇用見込みがある

労災保険

労災保険は労働者災害補償保険と呼ばれ、労働者であれば雇用形態に関わらず加入します。この保険のみ、保険料は全額事業主の負担です。労働中や通勤中に発生した怪我や病気などに対して、労働者本人や家族への補償と社会復帰のための資金が支給されます。

一般的に雇用保険と、労災保険の2つを併せて労働保険と呼び、社会保険と区別しています。

4月〜6月の給与と保険料の関係性

4月・5月・6月の給与は、社会保険料とどのような関係があるのでしょうか。
一般的に4月〜6月の給与が上がると、その年の9月以降の社会保険料が上がります。この4月〜6月の期間の給与は、残業代なども含めた3ヶ月間の平均額が「標準報酬月額」となり、社会保険料が計算されます。

3月〜5月に働いた分が関係する場合

給与が支払われるタイミングによっては、3月〜5月に働いた分が関係します。社会保険料は4月〜6月に支払われた報酬が標準報酬月額となるため、給与が翌月払いの会社の場合は3月〜5月に働いた分が該当します。給与当月払いの企業の場合は、4月〜6月の給与がそのまま保険料に関係する仕組みです。

標準報酬月額が決まるタイミング

標準報酬月額は、被保険者である従業員が事業主から受け取る給料などの報酬の月額を、区切り良い幅で区分した等級で表したものです。社会保険料や保険給付額を決めるための基準となります。標準報酬月額には、いくつか決まるタイミングがあります。

• 入社時
• 定時決定
• 随時改定など

基本的に毎年1回、定期的に標準報酬額を見直します。定時決定で決められた標準報酬月額は、その年の9月分から翌年の8月分の保険料の計算で使われます。定時決定は毎年7月1日現在に所属している会社において、4月〜6月の支払い基礎日数が17日以上ある月の総支給額を合計して算出した平均額を標準報酬月額とします。

転職などで新しい会社に入社する場合は、入社後に受け取る給与額を元に決定します。その他、年の途中で大幅に給与が変更された場合には、標準報酬月額の見直しが行われる可能性があります。昇進や資格取得による昇給、産休や育休などで給与が下がった場合が対象です。

標準報酬月額の求め方

標準報酬月額は、4月〜6月の総報酬を3で割った平均額です。この報酬に含まれるものには、以下の通りです。

• 基本給や時給
• 残業代
• 住宅手当
• 通勤手当
• 家族手当
• 賞与(年4回以上の支給の場合)

労働の対償として受け取るものは、すべて標準報酬月額の計算に含まれます。反対に標準報酬月額の求め方の算定に含まないものには、出産祝い金・結婚祝い金のほか御香典や永年勤続表彰による祝い金、年3回以下の賞与などがあります。

社会保険料の計算方法

社会保険と呼ばれる3つの保険料の計算方法についてご紹介します。

健康保険料の計算

健康保険料は、給与から健康保険料の控除適用額を計算します。健康保険料は企業と折半するため、その半分が自己負担額となります。

健康保険料=標準報酬月額×健康保険料率
健康保険料の自己負担額=健康保険料÷2

賞与が発生した場合は、賞与からも健康保険料からも「標準賞与額×保険料率÷2」が控除されます。保険料率は加入している健康保険組合や協会けんぽ、共済組合など保険者によって異なります。

厚生年金保険料の計算

厚生年金保険料は、保険料率が一律18.3%です。基本的には健康保険料と変わらず、企業と従業員が半分ずつを負担をします。

• 厚生年金保険料=標準報酬月額×18.3%
• 厚生年金保険料の自己負担額=厚生年金保険料÷2

介護保険料の計算

介護保険料は、健康保険料率に介護保険料率を足して求めます。40歳以上になると介護保険料も発生します。

• 介護保険料=標準報酬月額×(健康保険料率+介護保険料率)
• 介護保険料の自己負担額=介護保険料÷2

社会保険料が増えるメリット

社会保険料の負担が増えると、自身の手取り額が減ってしまいます。そのため、社会保険料が増えないようにしようと考える人もいるでしょう。しかし、社会保険料が増加するということは、受けられる保障が手厚くなるということです。以下では、社会保険料が増えると得られるメリットをご紹介します。

医療保険の給付が増える

社会保険料が増えると、医療保険に関連する給付が充実します。主に、傷病手当金や出産手当金です。

傷病手当金は病気や怪我で会社を休んだ場合、休業中の生活を保障します。支給期間は最長1年6ヶ月となり、支給開始以前の継続した12ヶ月間の標準報酬月額を平均して、30日で割った額の2/3が支給日額です。つまり、もし何らかの病気や怪我で会社を3日連続で休んだ場合、4日目以降に受け取れる金額が増えます。

出産手当金は出産で会社を休んで、給与の支払いを受け取らなかった場合、出産日以前の42日〜出産翌日以後56日目までの欠勤日に対して支給されます。支給額は支給開始日以前の継続した12ヶ月間の、標準報酬月額を平均して30日で割った額の2/3です。どちらの手当も、標準報酬月額が高い方が受給できる金額が増えます。

受け取れる年金額が増える

社会保険料が上がると、その中に含まれている厚生年金の保険料が増加しています。そのため、将来的に受け取れる老齢厚生年金の金額も増加します。老齢厚生年金の計算には標準報酬月額を使うため、標準報酬月額が高い分受け取れる額も増えるということです。さらに、遺族厚生年金や障害厚生年金の額にも影響します。

社会保険料が増えるデメリット

主なデメリットは、自身の手取り額が少なくなる点です。標準報酬月額が増えると、厚生年金保険料や健康保険料などの負担額が増加するため、手取りが少なくなります。

そのほか、高額療養費の自己負担額が上がる点もデメリットのひとつです。健康保険に用意されている高額療養費は、その月に支払う医療費が年齢及び所得によって決められた自己負担額を超えた場合に、超えた部分を還付してもらえます。しかし、自己負担額の算定には標準報酬月額が関係しており、標準報酬月額が多くなると自己負担額が増える仕組みです。

まとめ

4月〜6月に残業をすると、社会保険料が高くなるのかどうかについてご紹介しました。社会保険料は、4月・5月・6月に受け取った報酬の平均額が影響するため、その間に残業などが増えると社会保険料は上がるでしょう。

もし、給与が翌月払いの場合は3月・4月5月の基本給や残業代が社会保険料に影響します。社会保険料に関係する標準報酬月額は、4月〜6月の総報酬を3で割った平均額です。この報酬は基本給のほか、残業代や通勤手当、賞与などが含まれます。

社会保険料が増えると高額療養費の自己負担が増えるほか、手取りの額が減るなどの点がデメリットです。しかし、社会保険料が増えるのは、デメリットだけではありません。傷病手当や出産手当が増えるほか、将来受け取れる老齢厚生年金が増えるといったメリットもあります。

春先には転職によって、新たな職場で働く人も多くいます。給与から天引きされる、社会保険料の額がどのように決まるのか、どういったところに使われるのかを知っておきましょう。

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