「超実務スキル」こそが自律的な人生を拓く鍵となる|「ミドルシニアのためのキャリアの教科書」vol.10
- 木村勝のキャリアの教科書
- 公開日:2018年2月27日
中高年専門ライフデザインアドバイザーの木村です。早いもので「ミドルシニアのためのキャリアの教科書」の連載も今回が最終回となりました。
これまでの振り返り
これまでの内容を振り返りますと、コラム前半(第1回~第6回)にて、「企業による65歳雇用義務化により60歳定年退職ポイントが単なる通過点となり、キャリアを考える上でマイルストーンの役割を果たさなくなりつつあること」、それ故に「ミドルシニアは自律的に一度立ち止まって自らキャリアの振り返り(棚卸)が必要」であること。
後半の第8回・第9回では、ミドルシニアのキャリアの選択肢のうち、多くの方が検討するであろう「今の会社に勤め続ける」シナリオと「転職する」シナリオについて、ミドルシニア独自の視点から留意すべき点について解説させて頂きました。
最終回となる今回は、筆者が目標とするミドルシニアの働き方。つまり「世代間を超えた偉大なる社会のリリーフマン」について解説し、ミドルシニアの皆さんへの応援メッセージとさせて頂ければと思います。
「超超高齢社会」におけるミドルシニアの可能性
総人口に対して65歳以上の高齢者人口が占める割合を高齢化率と呼びます。高齢化率が7%を超えた社会を「高齢化社会」、14%を超えた社会を「高齢社会」、21%を超えた社会を「超高齢社会」と世界保健機構(WHO)や国連が定義していますが。日本では1970年に高齢化率が7%を超え、1994年に14%を突破し、2007年には21%を突破しました。今の日本は、この定義に当てはめるともう既に「超高齢社会」に入っています。
ちなみに2016年の日本の高齢化率は、27.3%(平成29年版高齢社会白書)で世界一。もはや超超高齢社会とも言える急激な高齢化に直面しています。人口問題研究所の予測では2020年に高齢化率は28.9%、2040年には35.3%に達するという予測が立てられています。
日本では老年人口の増加と同時に年少人口(0~14歳)の減少も同時に進んでいるため、少子化と合わせ「少子高齢化」と呼ばれることが多いのはご承知のことだと思います。しかしながら、悲観することはありません。
日本は、高度成長という時代の恩恵を受け、終身雇用制という長期でのじっくり時間をかけた人材育成方法により、知識も経験も豊富なミドルシニア層という厚みのある人的資源を確保することが出来ているのです。
止めることのできない労働力減少の流れの中で、日本の活力向上に貢献する潜在的なパワーを有しているのがミドルシニア層です。
「働かないオジサン」とお荷物扱いされている暇はない
電通事件など長時間勤務が大きな社会問題になっています。目に見えない閉塞感に覆われている日本社会ですが、若手層が後に続きたいと思えるような新たな働き方を提案することも現在のミドルシニア層の役割であり責務であるはずです。
地方では、中央のプロフェッショナルなミドルシニアの力を活用して、地域活性化を推進しようとする取り組みも始まっています。今後は親の介護で地元に戻る可能性も高まるため、都心の会社を辞めて介護をメインとする発想から、セカンドキャリアは自分の地元に戻って長年培ってきた経験・ノウハウを活かすという考え方も必要です。柔軟に介護対応を果たしつつ、生まれ故郷の活性化にひと肌脱ぐことでお金に代えがたいやりがい、社会的意義を感じることも可能です。
長い時間をかけて奥深いノウハウや知識を蓄積し、濃密な人的ネットワークを形成してきたミドルシニアの経験・スキル・人脈を活かさない手はありません。介護、育児など若い世代の活躍を妨げかねない課題解決にミドルシニアが貢献できる余地はたくさんあります。ミドルシニア世代も若手から「働かないオジサン」とお荷物扱いされている暇はないのです。
ミドルシニアに求められるスキルは「超実務」スキル
これからキャリアチェンジを検討する場合にぜひ意識しておきたい、実践的なキャリアの磨き方をご紹介します。筆者は、4年前に人事領域の個人事業主として独立しましたが、在職中から常に意識していた事項です。
「自分には専門性がない」というのはミドルシニア層の皆さんからよく聞かれる声ですが、そんなことはありません。「経理」「人事」「営業」など、大きな職種の括りで自分の専門性を埋没させる必要はありません。働いてきた企業や業種も異なり、対象としてきたクライアントも人それぞれ異なりますので、実は「経理」「人事」などで単純に括ることのできないスペシャルなスキル・経験を多くの人は持っています。
これからミドルシニアに求められるスキルは、評論家のように現場から離れてあれこれ評論するスキルではなく、今目の前にある現実の課題を自力で解決できる「超実務」スキルです。「超実務」スキルを磨き上げる材料は、今担当している仕事です。
大企業の人事部員、経理部員が中小企業で使えない理由は、この「超実務」から長年離れていることにあります。例えば、人事領域に関しては、採用から評価、異動、給与、研修、退職まで一気通貫でこなせる実務能力が求められています。しかし、大企業の多くは業務を外部ベンダーに丸投げ、あるいはプロセスの分割が進んでいるため、最初から最後まで自力で対応可能な人材が少なくなっていることが原因です。
例えば、人事制度で言えば、制度を自ら企画して就業規則の条文まで落とし込み、組合説明を行って、最後は労働基準監督署に届け出るまでの一連の流れを一人でこなせる力がミドルシニアには求められるのです。
「就社」意識から脱却し、「社会と直接つながる」気概を
役職定年でマネジメントから外されたと嘆く暇はありません。「超実務」を再度担当できるチャンス到来と考え、目の前にある一品一様の業務を「見える化」していけばいいのです。特に「すぐに目に見える成果が出ないために若手が敬遠するような仕事」にこそミドルシニアは率先して取り組むべきです。
若手が敬遠する業務の一つに業務の標準化があります。会社も口を酸っぱくして「マニュアル化しろ、業務の標準化を進めろ」と言いますが、労多い割には当たり前の仕事として評価されないのが業務標準化です。また、日常業務に追われてマニュアル作りなどやっている時間も暇も若手にはないのです。
ビジネスパーソンは誰でもいつかは、「今の会社に勤め続ける」、「転職する」、「出向する」、「独立起業する」という4つの選択肢の中から自らのキャリアを選んでいく必要があります。どのシナリオを選択する場合でも重要なことは、「自分は一国一城の主(個人)として会社・社会と契約をしている」という意識です。「会社への従属から対等の立場」へ、あるいは「会社に所属する就社から、社会と直接つながる意識」への転換と言ってもいいかと思います。
まとめ
雇用の流動化の必要性が指摘されていますが、学生の就職ランキング上位には、相変わらず銀行、商社、保険会社など筆者が学生時代と変わらない業種があがっている状況です。介護、医療、IT、農業など積極的に人的マンパワーの投入が必要な分野に、初めの投入段階からアンマッチが生じているのです。
なかなか進まない雇用の流動化ですが、様々な経験・ノウハウを持ったミドルシニアこそ、まずは産業間の人的アンマッチ解消の尖兵としての役割を担うべきと考えます。
これからのミドルシニアが目指す姿は、世代間を超えた偉大なる社会のリリーフマンです。長年の経験と高度な専門スキルを持つミドルシニアがこうした社会的課題の担い手として活躍することこそ、文字通り一億総活躍社会の実現であり、向かうべき姿です。
多様な働き方の実現という課題の解決は、長年の経験とスキルを磨き上げたミドルシニア層の双肩にかかっているといっても言い過ぎではないのです。