職人の世界へ40代から転職って現実的?仕事探しの方法や待遇は?
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- 公開日:2018年2月 2日
- 最終更新日:2019年4月 1日
建築系を始め、伝統工芸などのものづくり、または食品業界などで活躍する職人の世界に関心を持ち、転職を志す人もいます。しかし、40歳を過ぎてから一人前の職人を目指すことは現実的に可能なのでしょうか?職人・伝統工芸の求人の調べ方や待遇などについてご紹介いたします。
日本における職人の存在
日本における「ものづくり」は、単に製品・商品を作る作業にとどまらず、先人から連綿と受け継がれてきた世界に誇る日本の文化です。職人たちが作り上げてきた数々の文物は、今の時代にも多く残っています。
ものづくりに従事する人々の個性が花開いたのは江戸時代。「士農工商」の「工」に属する職人たち。中でも江戸の花形だったのは「大工」「左官」「鳶」。「花の三職」とも言われ、もてはやされた存在でした。
そんな職人を成長させたのは下積み時代の精神的、肉体的な苦労でした。年端もいかぬうちから親方に弟子入りし、朝から晩まで雑用やら下働きでこき使われ、仕事に関わることができるのは何年も後。ヘマをすれば容赦なく殴られるなどの時期を経て半人前となり、腕を磨いてついに一人前となって独立する。
そのような経験を通して成長してきた彼らの特徴は「何より粋で、誇り高い」こと。今ではスパルタ教育扱いされるような厳しい指導によって、「職人気質」という言葉に代表される腕に自信を持った気質を持つようになったのです。
現代にも息づく職人の仕事
現代においても様々な業界で職人と言われる仕事は存在しています。代表的なものの名称を記します。
■建築系の職人
鳶、大工、左官、宮大工、床職人、経師屋(表具師)、クロス屋、屋根屋、建具職人、植木職人、庭師、解体屋、内装工、塗装工、配管工、指物職、など
■ものづくり系の職人
刀鍛冶、漆塗り職人、織物職人、七宝工、和紙職人、製硯師、木彫刻師、仏壇職人、竹細工師、人形師、文具師、家具職人、漆器工、瓦職人、和裁士など
■食品系の職人
寿司職人、蕎麦職人、味噌職人、豆腐職人、パン職人、和食料理人、パティシエ、きりたんぽ職人、せんべい職人、和菓子職人、飴細工師、ふぐ調理師、杜氏など
あらゆる業界の職人に共通していえることは、厳しい修練により能力を身に付けて、一定の地位を得ていることです。日本古来のものづくりに対する情熱が色濃く残る職人の仕事は、今も多岐に渡って存在しているのです。
深刻化する後継者問題と新たな取り組み
現代でも、建築系の左官や鳶を始めとして、活躍している職人は多く存在します。しかし、高齢化が進んでおり、後継者不足も深刻な問題となっています。経済産業省の資料によると、伝統工芸においては昭和55年に26.1万人いた従事者数は平成21年には7万9千人に減少。30年間で1/3になっているのです。
後継者問題が深刻化している理由
大きな理由はかつて手で作っていたものが、工場で大量生産されるようになったことです。大量生産される商品は生産効率が高いため価格が安く、多くの消費者に選ばれます。すると、品質は良いが価格は高い職人の手がけた商品が選ばれず、職人の収入が減っていきます。
若い世代も儲からない仕事というイメージがつくため人が集まらない。そうして後継者が育たないという負のループが生まれているのです。このようにして、長く受け継がれてきた技術や文化が途絶えてしまう流れが日本中で起きています。地域を代表する伝統工芸品なども後継者不足で無くなってしまう可能性もあるのです。
伝統工芸業界が行う新たな試み
海外の安い製品や工場での大量生産製品に価格では太刀打ちできないとはいえ、伝統工芸品は独自の技術を用いた独創性の高いものばかりです。それが次の世代に引き継がれないということはいわば日本の財産を失うこと。そのため、経済産業省や自治体を中心に新たな取組が行われています。
それは補助金などを支給することにとどまらず、伝統工芸の産地などへ観光客を誘致することや、海外販路の開拓を後押しするためにデザイナーとのマッチングを行う活動なども行っています。
そこで生まれた商品をパリに常設された店舗で販売するなどの取り組みが行われているのです。その他、海外ブランドや大手家電メーカーとのコラボ商品などの開発なども積極的に行っています。
どのような人が転職してきているの?
40代を超えて職人の門を叩く人も
このような取り組みが功を奏し、職人の道を選ぶ若い世代は徐々に増えています。
(財)伝統的工芸品産業振興協会が行った平成14年から平成18年の調査によると、熊野筆の生産に関わる従事者は2800人から2600人へ減少したものの、20代・30代は215人の増加。南部鉄器においては20代・30代が98人増加したという結果も出ています。
さらに、全く別の業界から職人の世界へ飛び込む方もいるようです。弟子や後継者募集は幅広い年代を対象に行われることもあり、40代以降のミドルシニア層でも応募できる職種は多く存在しています。
中にはこれまで都市部で暮らしていたけれども、子どもに手がかからなくなったのをきっかけに地元に戻り職人の世界に飛び込む、といったUターン・Iターンなども生まれています。
職人世界の待遇やメリットは?
職人の世界は腕次第。そのため、学歴や職歴を気にしないで平等に勝負できる業界と言えるでしょう。一人前になるまでの道のりは簡単なことではありませんが、師匠・親方に相談しながら技術習得に取り組むことは大きなやりがいがあります。
特定の技能を身に付けたら定年を意識しないで働けるメリットもあるため、腕を磨いてしまえば長く働けるという強みがあるでしょう。日給や月給は、選択する職業によって大きく変わるため一概には言えません。
国家技能検定などの資格制度が設けられているものも多く、スキルアップによって収入アップを目指していくことができるうえ、職場に資格手当の支給制度があれば、習得したスキルに応じた報酬を受けることも可能です。
職人が在籍している組織もいろいろありますから、少しでも待遇が良い案件を探してみましょう。得られる環境や待遇はさまざまで住み込みの仕事もあります。面接の際に、ステップアップしていくうえでのモデル給与やキャリアプランを見せてもらうと、将来性に関する見通しが得やすくなります。
福利厚生は享受できるが、頼れるものはやはり自分の腕
なお、職人といえども基本的には労働基準法の監督下で働くため、社会保険などの福利厚生をもちろん享受できます。株式会社が母体の求人などでは、健康保険や雇用保険といった保障も受けられます。
将来の安定性を考慮することは大切ですが、結局のところはご自身の努力次第という部分が大きい世界です。伝統工芸などでは作り手の評価が収入に直結するケースも多く、たくさんの人から評価される作品を産み出していけば、多くの収入を地方で得ることも可能です。
逆もまたしかりで、評価を受けるところまで到らなかったケースでは、収入が思うほど伸びないこともあります。良くも悪くも自分の腕次第の世界であることを理解しましょう。
伝統工芸の仕事はどのように探せば見つかる?
気になる求人を見つけた場合
働きたい工房、お店が決まっているようなら、問い合わせをしてみるのが早道です。職人としての求人はもちろん、伝統工芸に関わるスタッフ職、事務職の同時募集がないかも聞いておくと参考になります。企画営業、販売業務まで含めて募集を探すと、より門戸が広がるでしょう。
その際には40代からでも一人前を目指すことはできるのかを質問しておきましょう。一定の年齢になってから早期退職して転職してきた先輩がいるようなら、将来にも希望が持てます。
組織・団体に問い合わせてみる
他には、伝統工芸の求人を産地単位で取りまとめている組織に紹介をお願いするのも一案です。西陣織工業組合、鳶工業連合会など希望する産業に応じた組織を探して、問い合わせをしてみましょう。
全国規模の組織であっても、地域の窓口を教えてくれることがあります。技能研修、講習会の情報もホームページで閲覧できますから、仕事を始めた後のスキルアップ方法を知っておく機会にもなるはずです。
愛知、神奈川、東京、大阪といった大都市圏でも、業種によっては求人が見つかることもあります。ハローワークで求人を募集している場合もあるので、広くアンテナを張って情報収集するのがよいでしょう。
研修生から始める方法も
後継者を育成する教育研修機関があれば、研修生から始める方法もあります。40代が受講できるものと現実的に難しいものがあるため、募集要項によく目を通してから応募しましょう。
転職活動者を対象に募集を行っている場合、担当業務や年収、就労後の年収なども教えてくれることがあります。最初は接客からスタートなど就労後の条件に縛りがある場合もあるので詳細をよく確認しましょう。
どんな求人があるのかまずは詳細を調べてみたいと思ったら、職人に特化した転職サイトを活用できます。具体的な仕事内容や待遇が書かれていて、働き方のイメージを掴むためにもおすすめです。
四季の美
職人の方へのインタビューや伝統産業に対する読み物も充実しています。
ニッポン手仕事図鑑
様々な伝統工芸を手がける事業所が掲載されています。写真が美しく、動画も豊富です。
まとめ:40代からだからこそ、本当の意味での手に職を
40代ともなれば体力は落ちてくるうえに、物覚えも若い頃と比べると遅くなっていることも。そのため、職人という新たな世界へ舵を切るのは勇気のいることです。若い頃と比較するのであれば、よほどの苦労が必要になることは想像できます。
しかし、それは会社員として違う会社に転職するのも同じこと。新たな環境でうまくやっていけるかどうかは、やってみなければわかりません。どこで働くのも、多くの苦労を必要とするものです。
「六十の手習い」という言葉があります。これは「学問や習い事をするのに年齢制限などなく、たとえ晩年に始めても遅すぎるということはない」という意味です。職人への道は学びの毎日です。
先人の培ってきた知恵と技術を身に着け、自分が満足できる物を作ることで生計を立てていく。そして、何と言っても自分の手で作った物が単に商品としてだけではなく、一つの文化の担い手となることができるのです。
職人という仕事は、一つの生き方です。毎日が鍛錬であり、自分との戦いかもしれません。
それでも、その道を歩みたいという気持を持ち続けることができるのであれば、挑戦することをお薦めいたします。会社員では味わえない、やりがいと充実感を感じることができるでしょう。