デジタル遺言とは?制度の概要やメリット・デメリットを解説
- ライフプラン・人生設計
- 公開日:2026年9月11日
遺言制度のデジタル化が進み、公正証書遺言ではオンラインで申請や手続きができるようになりました。また、自筆証書遺言についてもデジタル技術の活用が検討されています。こうした動きは、遺言書作成の負担を軽減し、より多くの人が利用しやすい環境づくりを目的としています。この記事では、デジタル遺言の概要やメリット・デメリット、利用時の注意点についてわかりやすく解説します。
デジタル遺言制度とは
デジタル遺言制度には2つの種類があります。民間事業者が提供するデジタル遺言サービスと、政府が導入を進めるデジタル技術を活用した遺言方式です。今回は、政府が導入を進めるデジタル技術を利用した遺言方式について解説します。
デジタル遺言制度の概要
政府が導入を進めているデジタル遺言制度は、その名の通りデジタルを使って遺言書を作成するシステムです。
遺言書には、自筆証書遺言書・公正証書遺言書・秘密証書遺言書の3種類があります。現行制度の場合、自筆証書遺言書と秘密証書遺言書は、全文を手書きでの作成が必要です。公正証書遺言書は、公証役場にて公証人に内容を伝えて作成してもらう方法です。
遺言書を作るには全文手書きや、公証人に立ち会ってもらうなど手間や費用がかかるため、敷居が高いと考えている人も多いでしょう。デジタル化に対応することで、多くの人が遺言書を作成しやすくなるように、ハードルを下げるのが目的の1つです。
デジタル遺言制度はいつ始まるのか
デジタル遺言制度の導入について、自筆証書遺言書は検討中であり、開始時期は未定です。そのため、2026年6月時点でも自筆証書遺言書は手書きでの作成が必須です。公正証書遺言書については、2025年10月から制度がスタートしています。
デジタル遺言制度の導入背景
デジタル遺言制度の導入が検討されている背景には、社会環境や生活スタイルの変化など、複数の要因が影響しています。パソコンやスマートフォンが普及したことで、手書きで文書を用意する機会が減少しており、作成へのハードルが高いと感じている人が増えています。
また、公正証書遺言書を作成するには、公正役場での複数回の打ち合わせと、2人以上の証人の用意が必要です。完成までに時間も手間もかかってしまうため、途中で断念する人もいるのが問題点の1つです。
遺言書がないと、所有者不明の土地や空き家が出るなど、社会的な問題も出てきています。これらの問題を解決し、少しでもスムーズな相続を実現させるために、デジタルを活用した遺言書の作成や保管が検討されています。
各遺言書のデジタル制度に関する概要
各遺言書がデジタル化した場合、どのように変わるのでしょうか。遺言書の種類や、デジタル化による変化を解説します。
自筆証書遺言書
自筆証書遺言書は、遺言の内容・署名・日付の全てを手書きで書くのが現行制度の内容です。「自分で紙に書く」が前提となっており、手書き以外のものは認められていません。
デジタル化が導入されると、前提条件が大きく変わるため、どのように実施するのかについては議論が続いています。今後予想される変化は以下のようなものがあります。
- 本人が作成したという証明が難しくなる
- 遺言書の形式が変わる
- 保管の仕組みをどうするか
誰でも作れる形式に変えることで、本人の意思で作成されたものであるという判別が難しくなるのが問題点の1つです。本人証明のために、電子署名・録音・録画・証人をつけるなど、別の対応策が必要となってきます。
現在は紙に書かれたもののみが遺言書とされていますが、今後は手書きをデータ化したものや、入力された文書を遺言書として有効とする可能性が出ています。要件となっている押印についても、不要とするのか下書きと区別するために別の要件を設けるのかなどが検討されています。
保管について、自筆証書遺言書は自宅での保管になっていますが、どのように管理をするのかのルールも検討されている際中です。
公正証書遺言書
公正証書遺言書は遺言者が公証人に口頭で内容を伝えて、公証人が内容を文書にまとめ、公証役場で保管する遺言書です。従来の制度では、公証役場に遺言者が出向いて公証人に直接伝える必要がありました。デジタル化がスタートしたことで、以下のような変更点が出てきます。
- 公証役場に行かず、Web会議で陳述や内容確認ができる
- 公正証書の申請をインターネットでできる
- 公正証書の作成に必要な署名や押印が電子署名になる
- 公正証書を電子データで保存し、証明書の交付も電子データで行える
手続きのほとんどをオンライン上で行えるため、これまでよりも作成に関するハードルが下がっています。ただし、オンラインでの陳述や内容確認は、公証人が相当であると認める必要があるため、全員が利用できるわけではありません。
秘密証書遺言書
秘密証書遺言者は、内容を秘密にしたまま公証役場で公証人に遺言書の存在を証明してもらうものです。内容を秘密にできるので、他人に漏洩するリスクがありません。しかし、作成が難しく、無効になるケースも多いのでほとんど作成されていないのが現状です。
デジタル化についての議論はされていますが、他の2つよりも優先度が低く、機密性を保持する点からも、現行制度のままになる可能性もあります。
デジタル遺言制度のメリット
デジタル遺言制度には、いくつかのメリットがあります。ここでは主に5つのメリットをご紹介します。
役場に行かなくても公証人と面談できる
公正証書遺言書がデジタル化されたことで、公証役場に行かなくても公証人と面談ができるようになりました。Web上で陳述・内容確認・電子署名までできるので、移動や日程調整の手間が軽減されています。
作成した遺言書の見直しもしやすくなるため、公正証書遺言書を作成するハードルが下がっています。ただし、オンラインで遺言書を作成する際には、公証人が相当と認める条件を満たしている必要があります。
紛失や改ざんのリスクが少ない
遺言書をデジタルで管理できるようになると、紛失や改ざんのリスクが下がります。自筆証書遺言書の場合、作成した遺言書は遺言者の自宅や金庫などで保管が一般的で、紛失や第三者による内容の改ざんなどが行われやすい状況にあります。
デジタル化が行われれば、他者からのアクセスが難しくなるうえ、バックアップによって安全な保管が可能になります。
受領方法が増えた
デジタル化が導入されたことで、遺言書の受領方法が紙の正本・謄本のほかに、電子データも追加されました。電子データで受け取れるようになると、保管の手間が減るので、より自分に合った管理ができるようになります。
また、全国どこにいても閲覧できるようになる可能性もあります。遠方にいる親族も自宅にいながら内容を確認できれば、相続手続きの手間も減らせるでしょう。
家庭裁判所の検認手続きが不要
自筆証書遺言書の場合、相続時に家庭裁判所において検認手続きが必要です。検認手続きのためには、家庭裁判所に申立書を提出し、戸籍謄本などの書類の準備も必要など手間がかかるのが問題です。
しかし、将来導入される制度の内容によっては、法務局などの公的機関が保管を担うことで、検認手続きが不要になる可能性があります。相続時の手間が軽減されるため、相続人にとってもデジタル遺言制度はメリットがあります。
遺言書作成のハードルが下がる
公正証書遺言書の場合、役場へ行ったり何度も打ち合わせたりといった手間がかかっていましたが、デジタル化によって自宅にいながら申請や作成が可能になりました。自筆証書遺言書でもデジタル化が導入されれば、より多くの人が気軽に作成ができるようになります。
「手書きが面倒」「まだ作らなくてもいいかも」と感じていた人でも、ハードルが下がることで、「作成しようかな」と検討しやすくなったのもメリットの1つです。
デジタル遺言制度のデメリット
デジタル遺言制度にはデメリットもあります。以下では、3つのデメリットをご紹介いたします。
本人の意思がわかりにくい
デジタル遺言書となるデメリットとして、本当に遺言者本人の意思で作成されたものであるかがわかりにくくなる点があります。これまで、法的に有効な遺言書は本人が自筆で作成したもののみだったため、なりすましなどができない状態でした。
しかし、パソコンやスマートフォンでの遺言書が認められるとなると、第三者による入力など本人以外による作成が容易になります。遺言者本人の意思であるとわかる仕組みがないと、信頼性を確保できないのがデメリットです。
データの消失や改ざんのリスク
デジタル遺言書は紙よりも消失や改ざんのリスクは少ないですが、セキュリティシステムが整っていないと、パスワードや一部の情報などが漏洩する可能性はあります。特に公的機関を利用せずに保管する際は、個人で万全な管理が必要です。
どのように保管しているかを周囲に伝えなければ、見つけてもらえない・閲覧できないなどの問題につながる事態も予想されます。
全文を口述する必要がある
自筆証書遺言のデジタル化については、本人の意思確認方法として全文の口述や録音・録画などが検討されています。現行の自筆証書遺言では口述する必要がないため、作成に新たな手間が増えるのは作成者にとってデメリットとなります。
デジタル遺言制度を利用する時の注意点
デジタル遺言制度を利用する際に、知っておきたい注意点を3つご紹介いたします。いざ利用してから、知らなかったとならないよう事前にご確認ください。
作成に関する料金が高くなる
公正証書の作成手数料は制度改正に伴い見直されています。実際の費用は財産額や手続内容によって異なるため、事前に公証役場へ確認しましょう。作成する際にかかる基本手数料は、文書の目的となる財産価額に応じて決まっています。
これまで目的価額が50万円以下は費用が発生していませんでしたが、現在は3,000円の手数料が発生するなど、変更となっているので、作成する際は事前に確認をしておいてください。
PC環境が必須
デジタル遺言書ではパソコンやスマートフォンなど、デジタルに対応した環境が必須です。アプリ操作やスムーズな文字入力に慣れていない人にとっては、作成のハードルは高いままになります。
ただし、デジタルが苦手な人は、従来通りの手書きの自筆証書遺言書を利用できるので、自分に合った方法での作成を検討してみてください。
内容の相談はできない
公正証書遺言書を作成する際、遺言の内容を法的に有効な形にして作成はしてもらえますが、公証役場や公証人に内容の相談はできません。
あくまでも遺言者の意思を正確に、公正証書に残すことが役割であり、内容面の相談は対応範囲外です。内容について不安がある際は、作成をする前に行政書士や弁護士などの専門家に相談してください。
まとめ
デジタル遺言制度の概要やメリット・デメリットなどについてご紹介しました。デジタル遺言制度は、これまで自筆での作成しか認められていなかった遺言書を、パソコンやスマートフォンで作成したものも有効であると認める制度です。
作成のハードルを下げて、多くの人が気軽に遺言書を残せるようにするのが目的の1つとなっています。これまでよりも気軽に作成ができるほか、紛失や改ざんのリスクが減るなどデジタル化には遺言者・相続人双方に多くのメリットがあります。
一方で、遺言者本人の意思が確認できないなどのデメリットもあります。利用をする際は、自分や家族との関係に合っているか、相続の問題を少しでも減らせそうかなどを事前に確認してみてください。